社会の未来を変える魔法の技術、「触媒」とは?
化学反応を効率よく助けてくれる物質
「触媒」とは、化学反応を助ける物質です。例えば、体の中での化学反応を助けているさまざまな種類の酵素も触媒ですし、植物の光合成に欠かせない葉緑素も触媒です。光合成は、二酸化炭素と水から酸素とデンプンなどの有機物を生み出す仕組みです。この化学反応を人間の手で進めようとすると、ものすごい量のエネルギーを必要とします。しかし、植物が葉緑素を触媒として行う光合成は、わずかなエネルギーしか消費しません。こうした天然の触媒の構造を研究すると、人工の触媒を開発していく上で何が必要なのかが次第にわかってきます。
触媒の土台の部分を精密に設計する
金属に非金属の原子を結合させることで、さまざまな特性を持たせる「金属錯体(さくたい)」を触媒として用いる研究分野で、日本は世界でもトップクラスの実績を残しています。その一方で、そうして開発された金属錯体を触媒とした化学反応を実用化するプロセスは、これまで充分に実現できていません。
そこで、最近研究が進められているのは、おもちゃのブロックのように土台の上にパーツを組み合わせてのせて、その上に金属錯体が設計した通りの3次元的な構造で並ぶように組み上げていく手法です。このような3次元的な構造の設計を人間がゼロから考えるのは困難ですが、天然の触媒の構造研究が進んで、その仕組みがわかってきたことで、精密な設計を行える可能性が広がりました。こうした手法によって、実用化をはばんでいた製造コストや効率などの課題が解決され、環境に優しい技術として利用されることが期待されています。
触媒の秘めているさまざまな可能性
新しい触媒の開発は、現代社会の抱える環境や資源、エネルギー問題を根本的に解決することのできる可能性を秘めています。「新たな医薬品や、さまざまな機能を持つ素材の開発」「白金を使わず、より安価な燃料電池」「人工光合成」など、触媒の活躍が期待される分野は多岐にわたります。社会の未来を変えていくかもしれない、魔法の技術、それが触媒なのです。
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東京工科大学 工学部 応用化学科 教授 原 賢二 先生
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