生物工学の長所を生かして、今までにない医薬品を作る!
「ラクトフェリン」から薬を作ろう
母乳や牛乳に含まれる「ラクトフェリン」というタンパク質があります。このラクトフェリンは、抗ストレス作用や抗酸化作用、抗ウイルス作用などさまざまな活性を持ち、健康食品によく使われています。しかし、タンパク質であるがゆえに口から摂取すると胃などの消化液により大半が分解され、かろうじて腸まで届いたものが吸収されたとしても、血中での安定性があまりよくありません。そこで血液中にある抗体の一部とラクトフェリンを遺伝子組換え技術で融合させると、活性はそのままに安定させることができ、医薬品として使えるものになります。
どんな薬をどんな方法で作るかもポイント
こうして作られた薬の用途としてはまず、ラクトフェリンが肝臓に集積する性質を生かした、肝疾患治療薬が考えられます。またエンドトキシンという毒素に強く付着し、同時に抗菌作用や炎症も抑えてくれるなどマルチな活性があることから、敗血症の治療にも効果を発揮する可能性があります。
実は高分子のポリエチレングリコール(PEG)を化学的に結合させても同様のことができるのですが、遺伝子組換えに比べると非常に高いコストがかかってしまいます。また、ラクトフェリンがいかに優秀な活性を持っていたとしても、世の中のニーズに合わない薬を作っても意味がありません。例えば抗菌性に関しては既によい薬があるため、わざわざラクトフェリンを使って薬を作る必要はないわけです。
工学ならではの発想を生かして
またラクトフェリンはもともと食品ですから、汎用性を高めるという意味では、サプリメントとしての使用法も考えられます。この場合、遺伝子組換えをした食品には抵抗感があるなら、例えば酵素を用いてラクトフェリンを化学的に変化させるなどして血中での安定性を高めることもできます。
あるものに付加価値を与え、いかに既存のものと差別化を図るかという観点は工学ならではの発想です。これこそが、生物工学による新薬開発の強みと言えるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京工科大学 応用生物学部 応用生物学科 教授 佐藤 淳 先生
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