鉄の力を引き出して、二酸化炭素を有用物質に変える
二酸化炭素の削減
地球温暖化の原因物質の一つである二酸化炭素(CO₂)の削減は、世界的に解決すべき課題です。二酸化炭素は化合物として非常に安定しているため、別の化合物に変換しにくいことが削減の難しさにつながっています。無理に変換しようとすると大きなエネルギーが必要で、環境問題の解決法として矛盾が起きてしまいます。
4個の鉄でパワーアップ
そこで、鉄を触媒にして二酸化炭素を有用物質に変換する研究が進められています。一般的な金属触媒には活性の高いパラジウムがよく使われますが、産地が限定され埋蔵量の少ない金属に依存するのは非現実的です。一方で、手に入りやすい鉄が使われないのは、触媒としての性質が低いからです。触媒として金属を使うには、金属原子1個に配位子と呼ばれる原子団を組み合わせて使用します。しかし、この化合物の金属を単に鉄に置き換えても、触媒としての性質が低下するため、何らかの工夫が必要でした。そこで、鉄原子を4個に増やし、鉄原子同士が相互作用を起こしやすい立体的な配置の化合物が合成されました。この化合物を使用すると、二酸化炭素のような炭素を1つ含む炭素資源を効率的に変換できる可能性が確認されています。
鉄を使いこなす植物
二酸化炭素から一酸化炭素を経由して有用物質であるアセチレン(C₂H₂)へ変換することを想定し、現在は一酸化炭素からアセチレンへの変換が、4つの鉄上で実現できています。アセチレン合成の実用化には、すべての反応過程を見つけ出す必要があります。多くの実用化研究では、排出した二酸化炭素をメタノールやメタンに変換する動きがありますが、これは炭素1つを含む化合物同士の変換です。一方、アセチレンは炭素を2つ含む化合物であるため、この変換の実現には大きな価値があります。
鉄を含む酵素を使って、土壌中の細菌は大気中の窒素をアンモニアに変換しています。アンモニアを常温常圧で合成できない人間と比べて、植物は鉄を見事に使いこなしているのです。鉄の力をさらに引き出す化学の発展が期待されます。
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先生情報 / 大学情報
弘前大学 理工学部 物質創成化学科 教授 岡﨑 雅明 先生
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