水に溶けにくい物質が水中で集まる「疎水効果」の謎を解明する
未だに多くの謎がある「疎水効果」とは?
水に溶けにくい物質が水中で寄り集まる現象は、「疎水効果」と呼ばれています。疎水効果は、水中という非常に身近なところで起きる現象であるだけでなく、私たちの身体を構成するタンパク質や酵素の機能にも重要な役割を果たすので、その仕組みを解明するための研究は古くから続けられてきました。しかし、疎水効果には未だに多くの謎が残されています。
疎水効果とファンデルワールス力との切り分け
疎水効果は、水分子に取り囲まれた水を嫌う分子が噛み合わさって結合する時、噛み合わさる部分の表面から水分子が放出される数に比例すると言われています。また、分子と分子の結合には、「ファンデルワールス力」と呼ばれる、原子や分子の距離の6乗に反比例して働く力も作用しています。水中で水を嫌う分子が集合する現象は、疎水効果とファンデルワールス力の両方によって生じると考えられていますが、疎水効果とファンデルワールス力を分けて考えることは、非常に難しい問題です。というのも、ファンデルワールス力は極めて弱いため、接触面積が広くなければ正確に計測できない上、接触面が離れると力が極端に弱くなるので、よく噛み合う分子をデザインして計測しなければならないからです。しかし最近では、ファンデルワールス力の計測に適した分子をデザインした上での研究が進んでいて、疎水効果によるものではない条件下でも、ファンデルワールス力のみによって分子が集合化しうることがわかってきています。
医療分野や物質開発の分野での応用への期待
疎水効果とファンデルワールス力に関するこうした研究がさらに進むと、さまざまな分野への応用が期待できます。例えば医療分野では、新薬の開発、タンパク質間の相互作用の解釈、ウイルスの自己組織化に対する精密な評価などが可能になります。また、物質開発では、マイクロメートルサイズの物質を精密に作成する手法の開発につながるとも言われているのです。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 教養学部 統合自然科学科 教授 平岡 秀一 先生
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