皮膚の角層はどうやってできる? 陸上生活のための機能的バリア
陸上脊椎動物だけが持つ角層
私たちの全身は柔らかな皮膚で覆われています。多層化した皮膚の一番外側にある「角層」は、死んだ細胞が積み重なったもので、陸上に住む脊椎動物に特有の組織です。脊椎動物が海から陸上へ進出した3.6億年前、紫外線や乾燥から体を守るバリアとして角層を獲得しました。両生類がまずこの角層を獲得して陸上に進出し、その後、硬くて強い角層の爬虫(はちゅう)類や、柔らかく保湿された角層を持つ哺乳類が誕生したと考えられています。そこで、この皮膚構造の変化から、細胞の適応進化のメカニズムを解こうという研究が行われています。
死んだ細胞が機能的なバリアを作る
角層を構成するのは死んだ細胞ですが、その角層を作るのはひとつ下にある「顆粒(かりゅう)層」の細胞です。この細胞は、死ぬと細胞内にある核やミトコンドリアがきれいに消えて、角質細胞バリアをつくります。
この顆粒層細胞の細胞死のメカニズムを調べるため、生きたマウスの角層が形成される様子が、ライブイメージングの手法を用いて解析されました。その結果、細胞死が起きる前には細胞内のカルシウムイオン濃度が、中性pH条件で60分間にわたって上昇し、その後、カルシウムイオン濃度は高く保ったまま、細胞内が速やかに酸性化することがわかりました。
角層から進化の謎へ
カルシウムイオンは体のさまざまなところでシグナル伝達として働いていますが、そのほとんどで濃度変化の起こる時間はミリ秒単位であり、60分間以上も上昇が続くのは特異的な現象です。このカルシウムイオンの上昇やそれに続く酸性化の仕組みについては今後の解明が待たれます。
マウスだけではなく、ヒトをはじめさまざまな陸上脊椎動物の角層形成について解析し、比較する研究を始めています。とくに両生類には、脊椎動物の陸上進出という適応進化の謎に対する根本的な答えがあるかもしれません。またその一方で、角層の研究はアトピーの治療や化粧品の開発へとつながるものとしても期待されています。
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東京工科大学 応用生物学部 化粧品コース 教授 松井 毅 先生
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