行為の「理由」をめぐる難問

行為の「理由」をめぐる難問

お年寄りに席を譲った「理由」とは?

例えば、あなたが電車でお年寄りに席を譲ったとします。普通に考えると、席を譲った「理由」とは「お年寄りのためになることをしたい」という考えや心理からでしょう。しかし夜ベッドに入って一日を振り返り、「今日の自分はいいことをしたな」と思うとしたらどうでしょう。そのときには席を譲った「理由」は、「いいことをしたという満足感を得たい」という利己主義的なものだったように思えてきます。あるいは、「周囲の視線が気になって譲ったのかもしれない」と思う人もいるかもしれません。
では、あなたがお年寄りに席を譲った「本当の理由」はどれなのでしょうか?

行為の「理由」を自分だけで決められるか

この問題を考えるときに陥りやすい前提があります。それは「行為の本当の理由は自分が一番よく知っている」というものです。これは正しいでしょうか? 先ほどの例で考えてみましょう。ある人が、自分はお年寄りのために譲ったのだと考えているが、ことあるごとにその話を他人にする、というようなケースです。この場合、私たちは「本当の理由」は「お年寄りのため」というよりは「自分が満足するため」という答えに傾くでしょう。
つまり私たちは、当人が考えているのとは違うものを「本当の理由」だと判断することがあります。そしてその手がかりは、その人が実際に何をしたかということにあるのです。

心の中で考えていることが行為の理由とは限らない

私たちは行為の「理由」とは、行為する際に当人が心の中で考えていたことだと思いがちです。だからこそ、「行為の本当の理由は自分が一番よく知っている」と思うわけです。しかし、私たちが、ある人の行為の「理由」を考えるとき実際にやっていることを見てみると、この前提は疑わしくなってきます。上でみたように、当人が「理由」とは認めないものであっても、行為の「本当の理由」とみなされることがあるのです。
こうして、普段私たちが「理由」について考えていることは本当に正しいのか、という哲学的な問題が浮かび上がってきます。

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立正大学 文学部 哲学科 准教授 竹内 聖一 先生

立正大学 文学部 哲学科 准教授 竹内 聖一 先生

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分析哲学

メッセージ

将来どんな道に進むべきなのかわからない、と今から不安に思っている人もいるかもしれません。高校生の頃の私もそうでした。ところが実際に大学生になってみると、思ってもみなかったような人やものとの出会いがありました。哲学との出会いもその一つです。
未来は今あなたが思っているよりも偶然に左右されているものです。その偶然に身をまかせつつ、これはと思うものを探し続けてください。そしてそれに出会えたら、周囲の目や時間を気にすることなく、それに没頭してみること、大学は、それができる場所だと思います。

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