翻訳作品をもっと楽しむには? 世界文学の視点を持つ
翻訳を深掘りする
スヌーピーで有名なアメリカのコミック『ピーナッツ』には、フランクリンという黒人のキャラクターがいます。フランクリンが初登場した1968年は、キング牧師やロバート・ケネディが暗殺された年でした。そんな折、『ピーナッツ』の作者シュルツのもとに「黒人と白人が仲よく遊んでいるところを描いてほしい」という読者からの手紙が届き、フランクリンのエピソードが描かれたのです。フランクリンの登場シーンは決して派手ではありませんが、日常風景のひとつとして描写されたことで当時のアメリカ人読者の心を打ちました。ただし、こうした背景を知らない現代の日本人が同じエピソードを読んでも、それが感動的なシーンだとは気づかないでしょう。翻訳作品を読むときは、作品が書かれた時代の社会背景を知ると、より深掘りできるのです。
国境を越えて広まる文学
翻訳された文学作品はひとつの国に留まらず、さまざまな国や人々に影響を与えていきます。例えばアメリカ南部を描きつづけたウィリアム・フォークナーの小説は、日本でも高い人気を誇りました。フォークナーの長編作品は、ほぼすべてがヨクナパトーファ郡という架空の土地で展開されます。ある土地の歴史を描くという作風は、大江健三郎や中上健次などの作家に影響を与えました。大江健三郎は四国の村を舞台に、中上健次は「路地」と名付けた場所を舞台にいくつも作品を書いています。
世界文学の重要性
文学研究は、日本語と日本文学、英語とアメリカ文学など、「一国一言語」が基本体制です。この視点は現代でも重要視されていますが、さらに幅広く見ていく必要もあります。ある国の作家や作品が別の国に影響を与える、複数の言語で創作する、類似したテーマが複数の国の文学で描かれるなど、一国一言語体制では分析しきれない出来事が数多くあるからです。こうした視点で文学をとらえる分野は「比較文学」と呼ばれますが、21世紀の欧米ではさらに「世界文学」という言い方も登場し、文学作品の新しい魅力を発見することが期待されています。
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