講義No.10971 法学

コロナ禍、罰則による営業規制の是非を考える

コロナ禍、罰則による営業規制の是非を考える

コロナ特措法の改正を契機に

新型コロナウイルス対策を強化する目的で、2021年2月にいわゆるコロナ特措法と感染症法が改正されました。当初案では罰金(刑罰)を科す予定が過料(行政罰)に軽減されたことなどで、話題になりました。とはいえ、緊急事態宣言下の営業時間短縮の命令などに違反すれば、金銭制裁が加えられることに違いはありません。もちろん、コロナ禍は人命に関わるのだから仕方ないという人もいるでしょう。他方で、疲弊した飲食業者に金銭制裁で追い打ちをかけるのは、やりすぎだと考える人もいるでしょう。一体どう考えるべきでしょうか。

処罰規定の根拠を問う:クラブNOON事件

参考になるのは、大阪のダンスクラブに関する裁判です。ダンスクラブは「風営法」によって営業時間なども規制され、違反には懲役も科せる規定になっていたのですが、当局が黙認する形で、違法営業が常態化していたのです。ところが2010年末から突然、取締りが強化されました。こうした中、クラブNOONは、風営法違反の罪で起訴された裁判で徹底して争い、無罪を勝ち取ったのです。判決によれば、風営法は性風俗や賭博の規制を目的とする法律であり、ダンスクラブを規制対象とした理由も、昔は性風俗を乱す業態だったからであって、男女がバラバラに踊る現在のダンスの規制までは、その目的からは導けないというのです。この判決の後、風営法は改正され、ダンスクラブは規制対象から外されました。

合理的で公平・公正な解決に向けて

法律を作って規制を加え、罰則を科すには、明確な根拠が必要です。この判決から学んでほしいのは、法律に罰則規定があっても、その規定の言葉通りに裁判をするのではなく、法律制定時の規制目的と現代の役割とを比較するといった方法により、合理的な解決を導くことが必要な場面があるという点です。では、コロナ特措法の罰則規定はどうでしょう。自分ならどう判断するか考えてみてください。それこそが法学という学問への第一歩なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪学院大学 法学部 法学科 准教授 戸浦 雄史 先生

大阪学院大学 法学部 法学科 准教授 戸浦 雄史 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

刑法学

先生が目指すSDGs

メッセージ

法学は法律を暗記する学問だと思われがちですが、それは間違いです。法学部の勉強で大事になるのは、どのように法律を使ってトラブルを解決するのか、つまり「法律の使い方」を、過去の判決から学ぶことです。要するに、裁判官の立場で法律を使う方法を、まずは身につけてもらいたいのです。
複雑な現実の中で起こるトラブルを解決へ導くツールが法律です。それを使いこなすには、公平・公正な解決へ至る筋道を自分の頭で考える力や、それを説得的に説明する力が必要になります。そんな関心の強い人に目指してほしい学問だといえます。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

大阪学院大学に関心を持ったあなたは

大阪学院大学は、大学8学部8学科・短期大学部1学科の総合大学です。留学や語学力向上をめざすプログラムが充実。語学教育研究所、異文化交流を体験するI-Chat Lounge、留学生との共同生活などキャンパスに通学しながら『学内留学』も実現可能です。また、卒業生から社長を多数輩出しているほか、ビジネス業界・公務員など多方面に社会で活躍する人材を育成しています。
大阪学院大学に興味・関心を持った方は、ぜひ資料請求(送料とも無料)してください。