摩擦を科学する―「トライボロジー」の世界
摩擦がないと、どうなる?
物体と物体が接するところには、必ず摩擦というものが発生します。もし摩擦がなかったとしたら、人間はつるつるすべって同じ所にじっとしていられないですし、歩くことすらできません。ボルトなどのねじはすべて抜けてしまいます。私たちの生活に欠かせない「摩擦」、そして、摩擦にともなって起きる「摩耗」や摩擦を減らすための「潤滑」といったものを研究するのが、「トライボロジー(Tribology)」という学問です。
エンジン内の摩擦を減らすには
機械工学の分野では、エンジン内の摩擦をいかに軽減するかという、「エンジントライボロジー」と呼ばれる研究が注目されています。エンジン内のピストンやベアリング部分などは、摩擦が大きいと、それだけエネルギーのロスが生じるので、摩擦を減らすことは、効率化を実現するとともに、エコロジーにもつながります。ただ、摩擦という現象の難しいところは、温度や湿度、材質や表面の状態など、さまざまな条件によって、状況が全く異なってしまうという点です。それだけに、奥が深く、まだまだ研究の余地がある学問だと言えます。
フレッチングを防ぐために
また、機械の振動により、「フレッチング」という一種の摩耗現象が起きることがあります。例えば、船には発電機が2台積んであり、どちらか一方を動かすことになっていますが、作動している発電機の影響で、作動していないほうの発電機も振動するため、ベアリングなどが微小な動きによって次第に摩耗し、機械のガタつきや異常音の原因となってしまうのです。機械の摩擦や摩耗を減らすには、潤滑油を使う方法がありますが、フレッチングにおいては油が間に入りにくいという問題があります。そこで、金属の表面に100ミクロン程度の細かいくぼみを無数につけると、油がそのくぼみに入りこみ、潤滑がスムーズにいくようになります。こうした工夫によって、摩擦をいかにコントロールするか、それがトライボロジーの大きなテーマなのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 海洋システム工学専攻 教授 地引 達弘 先生
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