摩擦を科学する―「トライボロジー」の世界

摩擦を科学する―「トライボロジー」の世界

摩擦がないと、どうなる?

物体と物体が接するところには、必ず摩擦というものが発生します。もし摩擦がなかったとしたら、人間はつるつるすべって同じ所にじっとしていられないですし、歩くことすらできません。ボルトなどのねじはすべて抜けてしまいます。私たちの生活に欠かせない「摩擦」、そして、摩擦にともなって起きる「摩耗」や摩擦を減らすための「潤滑」といったものを研究するのが、「トライボロジー(Tribology)」という学問です。

エンジン内の摩擦を減らすには

機械工学の分野では、エンジン内の摩擦をいかに軽減するかという、「エンジントライボロジー」と呼ばれる研究が注目されています。エンジン内のピストンやベアリング部分などは、摩擦が大きいと、それだけエネルギーのロスが生じるので、摩擦を減らすことは、効率化を実現するとともに、エコロジーにもつながります。ただ、摩擦という現象の難しいところは、温度や湿度、材質や表面の状態など、さまざまな条件によって、状況が全く異なってしまうという点です。それだけに、奥が深く、まだまだ研究の余地がある学問だと言えます。

フレッチングを防ぐために

また、機械の振動により、「フレッチング」という一種の摩耗現象が起きることがあります。例えば、船には発電機が2台積んであり、どちらか一方を動かすことになっていますが、作動している発電機の影響で、作動していないほうの発電機も振動するため、ベアリングなどが微小な動きによって次第に摩耗し、機械のガタつきや異常音の原因となってしまうのです。機械の摩擦や摩耗を減らすには、潤滑油を使う方法がありますが、フレッチングにおいては油が間に入りにくいという問題があります。そこで、金属の表面に100ミクロン程度の細かいくぼみを無数につけると、油がそのくぼみに入りこみ、潤滑がスムーズにいくようになります。こうした工夫によって、摩擦をいかにコントロールするか、それがトライボロジーの大きなテーマなのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 海洋システム工学専攻 教授 地引 達弘 先生

東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 海洋システム工学専攻 教授 地引 達弘 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

機械工学

メッセージ

私は「トライボロジー」という研究をしています。高校生にはなじみのない言葉だと思いますが、摩擦、摩耗、潤滑という分野を扱う、実は私たちの生活に身近な学問です。この研究を行うには、機械だけではなく、物理学、化学、数学などの幅広い知識が必要とされます。ですから、高校生のあなたも、まず基礎的な知識をしっかりと身につけて、できればトライボロジーという学問にも興味を持って、東京海洋大学に来てほしいと思っています。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。