水産加工食品に潜む食中毒菌とは? 食の安全を守るための研究

水産加工食品に潜む食中毒菌とは? 食の安全を守るための研究

RTE食品に潜む菌

スーパーマーケットに行くと、加熱せずに食べられる「レディトゥイート食品(RTE食品)」がたくさん並んでいることに気づくでしょう。RTE食品の具体例としては、ハムやチーズ、スモークサーモンなどが挙げられます。欧米では、このRTE食品に付着する「リステリア菌」という食中毒菌による食中毒が頻繁に起こっています。健康な人が感染した場合は風邪のような症状で収まりますが、妊婦の場合は流産につながる危険性があります。更に、高齢者や免疫不全の人にとっては致死率が高く、驚異的な菌です。この菌の特徴として、低温条件下でも増殖できるため、冷蔵されて売られている間にRTE食品中で菌が増殖している可能性があります。

リステリア菌が多い食品は?

日本では、たらこやいくらといった水産加工品を食べる文化があり、これらはRTE食品に該当します。水産加工品におけるリステリア菌に関する知見は少なく、まずは現状を明らかにしようと、どの種類の水産加工品により多くリステリア菌が付着しているのかを調査しました。その結果、一部の品目ではリステリア菌の付着率が高い傾向にあることがわかり、今後はそれらが食中毒を引き起こす可能性があるのか慎重にリスク評価を行う必要があります。更に、近年では、消費者の健康志向の高まりから、減塩製品や無添加製品が好まれる傾向にあります。一方で、そのような製品群はリステリア菌をはじめとする細菌が増殖しやすい環境であり、こうした加工食品を販売するメーカーは、より気をつけて品質や衛生の管理をしなければなりません。

食の安全を守るために

日本では、食品の安全性を確保するべく、食品衛生法により「規格基準」が定められています。しかし水産加工のRTE食品に関してはリステリア菌に対する基準が定められていないのが現状です。RTE水産加工食品におけるリステリア菌のリスクを正しく評価し、規格基準の設定が必要かどうか判断するためにも、基礎データの収集や分析が求められています。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 助教 中村 綾花 先生

東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 助教 中村 綾花 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

食品微生物学、食品衛生学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私はもともと環境問題に興味があり、それを解決するための研究がしたいと思っていました。しかし大学で学ぶうちに食品微生物学に興味を持ち、食品の賞味期限延長や安全管理に関する研究を始めました。最初の希望進路とは異なりましたが、これはフードロスの防止につながる研究でもあり、環境とも関係しています。このように、あらゆる学問がどこかでつながっているはずです。あなたがやりたい分野だけを調べるのでなく、広い視野で学び、将来を考えてほしいです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。