船を安全な航行に導く「ウェザー・ルーティング」
安全な航行のために
船は日々変わる気象や海洋条件の中で、道のない大海原を目的地に向かって航行しています。例えば、日本から太平洋を横断してアメリカに到着するためには、10日間の航行が必要です。たくさんの選択肢の中から、できるだけ安全で早く、かつ燃料効率の良い航路を選ぶために、「ウェザー・ルーティング」というシステムが活用されています。航路の計算はあらゆるデータを加味する必要があります。最も大切なことは、安全に大きく関わる日々の気象・海象予報です。航行中に遭遇すると予想される風や波の、向きや大きさごとに条件立てした計算を行います。
条件に合わせたルートを提案
ウェザー・ルーティングでは、船の性能や状態、運行スケジュールなどの条件を考慮して計算された膨大な選択肢から、まず安全を最優先し、客船であれば少し遅れても乗客の居心地を優先してなるべく揺れない航路を提案します。また、多少は揺れても大丈夫な貨物船やコンテナ船のような大きな船であれば、気象状況の悪いところでも早く到着する航路を提案します。
太平洋のような大海原の場合は危険があれば大きく避けられますが、日本沿岸の航行では航行海域に制限があるために提案が難しくなります。陸が近い場合は複雑な海の流れも考慮しなくてはいけません。航路だけでなくエンジンの使い方など複合的な提案が必要です。
CO₂排出量の削減へ
現在は自律運航船の実用化へ向けた実験的な取り組みが始まり、航海中の船から絶えず現況のデータが送られてきます。現在のウェザー・ルーティングは予測や推測のデータのみで計算していますが、現況のデータが加わることで、より正確な航路提案ができるようになると考えられます。
海運業は、航海士の高齢化により将来的な人手不足が問題になっています。今までの航路選択は経験や勘に頼ることが多かったのですが、ウェザー・ルーティングがより高度化すれば、経験の浅い航海士も安全な航行が可能になります。さらに、効率的な航行により、消費燃料とCO₂排出量の削減にもつながっていきます。
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先生情報 / 大学情報
東海大学 海洋学部 海洋理工学科 航海学専攻 准教授 高嶋 恭子 先生
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