素粒子から探る宇宙の謎
宇宙から消えた「反物質」
宇宙が誕生した時、大量の「物質」と「反物質」が同じ量だけ生まれたと考えられています。「物質」「反物質」とは、鏡に映したように正反対の性質をもつ存在です。高いエネルギーの光がぶつかるとマイナスの電気を帯びた「電子」とプラスの電気を帯びた「陽電子」のペアが生まれるように、理論上は同時に生まれ、出合うと互いに打ち消し合って消滅するものです。これを「CP対称性」といいます。ところが、実際の宇宙には「物質」が残り、人間や地球など宇宙そのものが存在しています。このアンバランスな状態になった謎を解く鍵が、ニュートリノだといわれています。
地底で繰り広げられるニュートリノ研究
ニュートリノは素粒子のひとつです。素粒子とは、物質をこれ以上細かくできない最小単位にまでした粒子のことです。素粒子の標準模型では多くの素粒子の性質が解明されているのに対し、ニュートリノについてはほとんど解明されていません。ニュートリノは非常に軽く、電荷をもたないのでほかの物質とはほとんど反応せず、何でもすり抜けてしまうため、ニュートリノだけを検出して観測するのが難しいからです。そこで光を通さず、宇宙線の影響が10万分の1になる、地表から1kmの地底に観測所が造られました。そこに「スーパーカミオカンデ」という世界最大の地下ニュートリノ観測装置を設置し、太陽などから届くニュートリノを観測できるようにしたのです。
宇宙の研究は緒に付いたばかり
ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏や梶田隆章氏の功績により、ニュートリノの性質は少しずつ明らかになっています。なかでも1998年の「ニュートリノ振動」の発見で研究は飛躍的に発展しました。これでニュートリノが質量をもつことが明らかになったからです。また、ニュートリノ振動の存在は、「CP対称性の破れ」があることを示唆しています。これは宇宙の成り立ちを解明する一歩と言えます。しかし、謎の物質「ダークマター」の正体は未解明であるなど、宇宙はわからないことだらけなのです。
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神戸大学 理学部 物理学科 教授 竹内 康雄 先生
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