見えない粒子をつかまえる! 素粒子実験の研究とは
50年かかったヒッグス粒子の発見
素粒子に質量を持たせるために必要な素粒子「ヒッグス粒子」の存在を予言したとして、2013年、物理学者のヒッグス氏とアングレール氏がノーベル物理学賞を受賞しました。1964年に2人の論文が発表されてから約50年もの間、ヒッグス粒子を見つけるためにさまざまな実験が行われてきましたが、遂に2012年7月、ヒッグス粒子と考えられる新しい粒子が発見されたのです。この発見には、スイスとフランスにあるCERN(欧州合同原子核研究機構)のATLASとCMSという2つの国際共同実験グループが貢献しました。
地下100mに広がる巨大加速器
実験は、CERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を使って行われました。LHCは地下100mにある、全周約27kmの巨大なリング状の施設です。そこで、陽子をほぼ光のスピードに加速させ、1秒間に2千万回衝突させる実験が延々と繰り返されました。高エネルギーの陽子同士をぶつけることで、ビッグバン直後の宇宙のような状態をつくり出し、そこで生まれるいろいろな素粒子の中からヒッグス粒子を探していったのです。
ものづくりも素粒子物理学研究の大切な要素
ATLAS実験には、世界38カ国から約3千人の物理学者が集まり、日本からも16の大学や研究機関の研究者、研究員、大学院生が参加しています。ATLASの実験施設はビル7階分ほどの高さがあり、たくさんの種類の検出器が置かれていて、素粒子の種類やその運動量とエネルギーの測定が行われます。意外かもしれませんが、この検出器は物理学者自身がエンジニアと協力しながらつくりました。もちろん、設置や装置の運転も物理学者の手で行います。このようなものづくりも、素粒子実験の面白さの一つです。重要な実験結果をだすために、研究時間の9割程は、検出器の設計、建設、設置、運転、性能評価などに費やします。目に見えない素粒子をつかまえる素粒子物理学の研究は、決して理論を考えたり、データを解析したりするだけではないのです。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 理学部 物理学科 准教授 戸本 誠 先生
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先生への質問
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