原子を並べ替えて物質をデザインする「物質設計」とは?
ナノの世界を支配する不思議なルール
物質を構成する原子や分子は、ナノメートル(10億分の1メートル)というとても小さなスケールの世界に存在しています。ナノの世界は、ニュートン力学ではなく、量子力学において波動関数のふるまいを与える基礎方程式「シュレディンガー方程式」によって成立しています。ですから、壁に向かって放たれた粒子がすり抜けてしまうなど、私たちの感覚では考えられないような不思議な現象が起こっています。こうしたナノの世界を支配するルール「指導原理(法則)」を明らかにする研究が、世界各国で行われています。
原子の並び方を知ると物質の性質がわかる
硬い、柔らかい、光を反射する、電気を通すなど、物質が持つさまざまな特性はすべて、その物質の電子の状態によって決まります。電子の状態は原子の並び方と表裏一体の関係にあるため、原子の並び方を知ることは、その物質の性質を知ることにつながります。
これを逆の方向から考えてみると、「こういう性質を持つ物質がほしい」という時に、その性質をもたらすような原子の並び方をコンピュータで計算して見つけ出す、つまり物質をデザインすることも可能になります。こうしたナノテクノロジーの分野の研究を「物質設計」と呼びます。
ルールを知ることが成果への近道
例えば、燃料電池は、水素と酸素を反応させて電気を作り出す際に触媒が必要になりますが、触媒として用いられるプラチナは非常に高価で、コスト面での大きな課題となっていました。しかし最近、物質設計に基づく研究開発によってプラチナに代わる安価な触媒となる物質を作り出そうとするプロジェクトが、産学連携で進められています。
物質設計では、ただやみくもに原子を並べ替えてもうまくいきません。指導原理(法則)に従って並べ方を試していくことが、意味のある発見につながります。まずナノの世界のルールについて探究すること(法則を見つけること:サイエンス)が、工学(新しい付加価値を創り出すこと:エンジニアリング)の段階での成果をもたらすのです。
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先生情報 / 大学情報
電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 電子工学プログラム 教授 中村 淳 先生
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