人間とチンパンジーの違いは「糖鎖」にあり!?
「糖鎖」が果たしている重要な役割
体の中で正常なタンパク質を作るために働いているのが「糖鎖」です。例えば工場で製品を作るとき、完成した製品に問題がなければ出荷し、軽度の欠陥であれば作り直し、不良品ならば廃棄するという品質管理を行っています。同じことが細胞内の小胞体で行われていて、タンパク質生成の過程を見極めているのがタンパク上の糖鎖なのです。小胞体には10種類以上の糖鎖があり、分子構造の一端を切り、余分なものを結合させるなどして品質管理作業の目印にしています。
人間の糖鎖はバリエーション豊富
糖鎖はグルコースなど8種類のパーツ(単糖)から構成されていますが、結合の途中で分岐し、向きも変えられることから、多様なパターンができます。8種類のパーツのうち3つつなげるだけで10万種類はできることから、組み合わせは無限にあると言えます。
ほかの動物と違い、人間の糖鎖は多種多様です。人間とチンパンジーの遺伝子は約99%が同じと言われていますが、両者にたった1%とは思えないほどの違いがあるのは、表現力豊かな糖鎖が高機能なタンパク質を生み出しているからだと考えられています。
糖を使いこなせば未来が変わる
タンパク質の生成は意外に良品率が低く、30%は不良品です。不良品のタンパク質が排出されずに体内に蓄積すると、アルツハイマー病や糖尿病、骨粗しょう症の原因となります。したがって、もし小胞体の働きを正常化する薬を開発できれば、これらの病気の治療に貢献できるでしょう。
狙った糖の分子をつなぎ合わせる技術自体、産業面で大きな可能性を秘めています。例えば木材の主成分はセルロースで糖類ですから、プラスチックに代わる新素材が作れるかもしれません。また、バイオマス発電でよく使われるトウモロコシも糖類なので、エネルギー分野に応用できる可能性もあります。ただし、糖鎖は目まぐるしく形を変えるため、調べたい状態のものだけを採取することは難しく、化学合成により人工的な糖鎖を作ることでケミカルバイオロジー研究が進められています。
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成蹊大学 理工学部 理工学科 教授 戸谷 希一郎 先生
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