甘くない「糖」の可能性! 糖鎖合成で高機能な薬剤をつくる

甘くない「糖」の可能性! 糖鎖合成で高機能な薬剤をつくる

甘くない糖が体内で大活躍

「糖」と聞くと、砂糖、ブドウ糖など甘味料のイメージがあるでしょう。しかし、実はそれ以外にも非常にたくさんの種類の糖があり、いろいろな種類の糖が鎖のようにつながった「糖鎖」という分子は、体の中で重要な機能を持っています。糖鎖は細胞の表面にあるタンパク質や脂質に結び付いて、細胞内外の情報伝達をしたり、細胞同士の接着をしたりと、さまざまな役割を果たしています。この糖鎖を人工的に合成したり、ほかの分子にくっつけて新しい機能を持つ分子をつくったりする糖鎖合成の研究が進んでいます。

画期的な糖鎖合成法

糖鎖を合成する技術の中には、酵素を使う方法があります。酵素によって、糖鎖がくっついた分子から糖鎖だけを切りだしたり、別の分子に糖鎖をくっつけたりします。それには「EndoーM」と呼ばれる酵素を使う手法があり、これまでは、糖が結合した分子同士を結び付けることしかできませんでした。
そこで、EndoーMが何を認識して糖鎖を結び付けているか研究した結果、2つの「ヒドロキシ基(ーOH)」が特定の配置になっている部分を検出していることがわかりました。これまで、糖を持たない分子に糖鎖合成をするときは複雑な工程が必要でしたが、この特定のヒドロキシ基を人工的につけると、「ワンタッチ」で合成できるようになったのです。

糖鎖が薬効を高める―医療への応用

糖鎖合成技術は、医療に役立っています。例えば、従来使われていた貧血の薬に糖鎖を付加したところ、体内で分解されにくくなり、効果が長続きするため、投薬回数を減らせる可能性があることがわかりました。
また、造影剤に活用する研究も行われています。造影剤とは、体内に入れてX線検査などで画像を見やすくする薬剤です。これに糖鎖を用いることで、体内の糖鎖の代謝経路を可視化する可能性が出てきました。
このように糖鎖を簡単に合成できる技術は、新しい薬剤の開発を加速すると期待されています。

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東海大学 工学部 応用化学科 講師 苫米地 祐輔 先生

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有機合成化学、生物有機化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は、高校のときは特に明確な目標がなく、「何となく化学が好き」という理由で大学を選んだのですが、卒業研究で、自分で化合物をつくったことがとても楽しくて、研究者になろうと思いました。何より、いい先生に指導していただいたことが、大きなきっかけになりました。ですから、進路選びは「何となくこれが好き」というものがあればいいと思います。そして、どの大学に進んだらいいかわからなくなったときは、どんな先生がいるかということも選ぶ基準の一つにしていいのではないかと思います。

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