細胞を取りまく「ぷよぷよ」したモノ:医療・食糧問題の解決手段?
身近なモノに利用されている「ゲル」
ゼリー、スライム、こんにゃくの3つの共通点はぷよぷよしていること、つまり「ゲル」という状態です。細かい高分子の網が水を逃がさず、流れない程度に固まっているので固体と液体の中間の性質をもちます。
高分子の種類を変えると、さまざまなモノをつくることができます。日常生活の中でも、芳香剤や化粧品、高分子吸収シートなど、ゲル状のものを多く見かけます。ゼリーやグミなどの食品の中でゲル状のモノのほとんどは、私たち生物の細胞を取りまく高分子と水の複合物です。
コラーゲンゲルでいろいろな形をつくる
細胞を取りまく高分子の一つが、タンパク質の中で最も体内に豊富に存在するコラーゲンです。コラーゲンのゲルは、医療素材としても注目されており、これをシート状、カプセル状、ハニカム(ハチの巣)状などさまざまな形に形成する方法が研究されています。
その一環として、コラーゲンゲルのチューブを簡単につくる方法が開発されました。ガラス管に入った酸性のコラーゲン溶液を、徐々に中性にしていくことで真ん中に直径1ミリに満たない空洞をもつコラーゲンゲルができるのです。
再生医療や食糧問題への解決にも貢献
コラーゲンは、細胞が増殖していくときに「足場」となって、体内組織の形成や再生を促すことがわかっています。そこで、断裂した神経の間にコラーゲンゲルのチューブを入れて神経細胞を再生させる研究や、コラーゲンゲルのチューブを人工血管として使えないか研究するプロジェクトもあります。
人口増加にともなう課題に食糧問題がありますが、その解決手段の一つが培養肉の活用です。培養肉への転換は、多くの耕地と温暖化ガスを排出を必要とする今までの畜産のあり方を大きく変える可能性があります。コラーゲンの細胞増殖の足場としての特性を生かし、培養肉の効率の良い生産に利用しようという試みもなされています。このようにコラーゲンゲルの研究が、医療や食糧問題を切り拓く突破口になるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
佐賀大学 理工学部 理工学科 化学部門 准教授 成田 貴行 先生
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高分子化学、生体医工学、生体材料学先生が目指すSDGs
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