講義No.09978 外国文学

文学作品が鏡のように映し出す社会や文化

文学作品が鏡のように映し出す社会や文化

フランス文学は恋バナ、ドイツ文学は思索的

フランス文学には愛や恋をテーマにした作品がたくさんあります。階級社会であるイギリスの文学は社会の在り方抜きには話が進みません。ニーチェやカントがいたドイツはドイツ観念論などの思索の国です。小説はすべてなんらかの思想を語るためにあると思えるほど、思索抜きには語れません。

森鴎外が愛した「舞姫」のいた国とその時代

1880年代にドイツ留学した森鴎外は、帰国後に『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』というドイツ三部作をしたためます。彼の生きた明治時代の半ばは、日本人が西洋の社会や文化をほとんど知らない時代でした。そんな中、森鴎外はドイツの文化、宗教、考え方を小説の舞台設定に巧みに取り入れ、日本人にわかりやすく紹介しました。ドイツの思想の根底にある「真理への到達」「美の達成」「善行」について、登場人物の人生を通して描き、文化そのものを小説作品に「翻訳」したのです。政治の世界から社会を知るのではなく、一市民として生きている作家の視点を通して社会や文化を見るおもしろさが文学研究にはあります。

ナチスへの関わり方で社会的評価は激変

ドイツでナチス時代を生きた作家たちは、ヒトラーが政権をとった1933年に何歳だったかで人生は大きく違います。ドイツの最大の文学賞であるゲオルク・ビューヒナー賞を受賞したギュンター・アイヒも、ノーベル文学賞を受賞したギュンター・グラスも、ナチスに関与していました。前者は秘密を墓場まで持っていき、後者は自伝小説で告白しました。どちらも人気作家だったので、事実がわかったときの社会的な衝撃は大変なものでした。しかし、壮絶な体験をし、苦悩があったからこそ重厚な文学作品が生まれたのです。
歴史的な事象であっても、研究を通して現代とつながり、作品に時代の息吹が生きています。ひとりの作家を知ることで社会全体の様子をつかむことができ、物語だけでなくその背後の文化も味わえるのが文学研究の醍醐味です。

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先生情報 / 大学情報

京都府立大学 文学部 欧米言語文化学科 教授 青地 伯水 先生

京都府立大学 文学部 欧米言語文化学科 教授 青地 伯水 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

外国文学、ドイツ文学

メッセージ

英語が必要な時代ですが、英語以外の外国語にも興味を持ってください。日本語や英語だけでは表現できない世界があることを知って、言葉から文化に触れてほしいのです。
今は外国小説も外国映画も手軽に楽しめる時代ですから、たくさんの作品を鑑賞してください。中には意味のわからないこと、理解できないこともあるでしょう。それらを頭の引き出しに入れて蓄えておいてください。あなたが大学生になった時、その引き出しをひとつずつ開けて一緒に謎を解いていきましょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

京都府立大学に関心を持ったあなたは

京都府立大学は、長い文化的伝統を持つ京都の地において、125年にわたって府民に支えられつつ学問の府として活動してきた歴史を踏まえ、学生とともに、これからも京都府の知の拠点として、その使命を果たし続けます。そして、自主自律の精神のもと、大学人としての自覚を持ち、豊かな知性と教養、高い専門能力と倫理的判断力を備えた人材を育成し、高度で独創的な研究を推進することによって、自然との共生をはかりながら、地域社会の発展と府民生活の向上、さらには人類の幸福に貢献します。