文学作品が鏡のように映し出す社会や文化
フランス文学は恋バナ、ドイツ文学は思索的
フランス文学には愛や恋をテーマにした作品がたくさんあります。階級社会であるイギリスの文学は社会の在り方抜きには話が進みません。ニーチェやカントがいたドイツはドイツ観念論などの思索の国です。小説はすべてなんらかの思想を語るためにあると思えるほど、思索抜きには語れません。
森鴎外が愛した「舞姫」のいた国とその時代
1880年代にドイツ留学した森鴎外は、帰国後に『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』というドイツ三部作をしたためます。彼の生きた明治時代の半ばは、日本人が西洋の社会や文化をほとんど知らない時代でした。そんな中、森鴎外はドイツの文化、宗教、考え方を小説の舞台設定に巧みに取り入れ、日本人にわかりやすく紹介しました。ドイツの思想の根底にある「真理への到達」「美の達成」「善行」について、登場人物の人生を通して描き、文化そのものを小説作品に「翻訳」したのです。政治の世界から社会を知るのではなく、一市民として生きている作家の視点を通して社会や文化を見るおもしろさが文学研究にはあります。
ナチスへの関わり方で社会的評価は激変
ドイツでナチス時代を生きた作家たちは、ヒトラーが政権をとった1933年に何歳だったかで人生は大きく違います。ドイツの最大の文学賞であるゲオルク・ビューヒナー賞を受賞したギュンター・アイヒも、ノーベル文学賞を受賞したギュンター・グラスも、ナチスに関与していました。前者は秘密を墓場まで持っていき、後者は自伝小説で告白しました。どちらも人気作家だったので、事実がわかったときの社会的な衝撃は大変なものでした。しかし、壮絶な体験をし、苦悩があったからこそ重厚な文学作品が生まれたのです。
歴史的な事象であっても、研究を通して現代とつながり、作品に時代の息吹が生きています。ひとりの作家を知ることで社会全体の様子をつかむことができ、物語だけでなくその背後の文化も味わえるのが文学研究の醍醐味です。
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先生情報 / 大学情報
京都府立大学 文学部 欧米言語文化学科 教授 青地 伯水 先生
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