ドイツ文学で女性はどう描かれてきた? 文学に隠された差別を探る
家事をするのは女性だけ?
ドイツ文学には、しばしば家事をする女性が描かれてきました。例えばグリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』で料理をするのは妹のグレーテルです。カフカの『変身』で、虫になった主人公の世話を担当したのも妹です。こうした「家事をする女性」のイメージや、性別ごとの違いを強調するような男女の描写は、ドイツ文学のみならず現代日本のさまざまなメディアにも登場します。文学の中で繰り返されるこうしたイメージを受容するうちに、人々は「男女は役割が違う」という考え方を内面化します。こうして再生産されたイメージが、現代社会において女性の社会的地位の向上が進まない一因となっていると言えます。
文学に潜む差別
文学に描かれるこうした「他者」のイメージは、差別に発展する可能性を秘めています。19世紀にはさまざまな言説において人種間の違いが強調され、「主人たる人種」である白人の植民地支配が正当化されました。さらに「ユダヤ人は強欲」というイメージが喧伝されたことも、ナチスドイツ時代のホロコーストという悲劇につながっています。文学作品を享受する一方で、そこに無意識のうちに反映された社会構造・権力構造を批判的に研究することで、長い間見逃されてきた描写の問題点が浮かび上がります。
文学から社会を見る
ユダヤ人の描写は、時代によっても違いが見られます。ドイツでは戦後、ナチス時代を反省し克服しようとする流れがありました。例えばギュンター・グラスなどの作家が、加害者としての意識を忘れがちな戦後の人々を批判する作品を世に問いました。戦後ドイツの文学は、ナチス時代の過去という重い課題を背負ってきたと言えるでしょう。しかし戦後世代になると、再び否定的なユダヤ人イメージを生み出す作品も登場するようになってきました。面白いのは、こういう作品が世に出るたびにドイツでは大論争になるというところかもしれません。こうした作品を含め、作品に描かれる「他者」のイメージに注目して、批判的な視点の文学作品の研究が行われています。
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学習院大学 文学部 ドイツ語圏文化学科 准教授 伊藤 白 先生
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