人間存在を描き切った壮大な叙事詩、『神曲』

人間存在を描き切った壮大な叙事詩、『神曲』

『神曲』を知っていますか

『神曲』を著したダンテ・アリギエリは、13~14世紀に活躍したイタリアの詩人・哲学者・政治家です。『神曲』は「地獄篇」「煉獄(れんごく)篇」「天国篇」の三部作で、特に有名なのは地獄篇です。主人公「ダンテ」は、案内役のウェルギリウスと地獄などの死後の世界を巡り、生前の功績(罪であれ善であれ)に応じた報酬(罰や至福)を受ける人々に出会います。彼らは古代ギリシャの英雄、聖者、当時のイタリアの有力者から詩人の友人までが含まれます。当時、ヨーロッパの書き言葉は権威あるラテン語でしたが、この作品は現地で話されていたトスカーナ語を洗練させた言語で書かれました。さらに秀逸なのが、人物描写のリアリティです。

多くの人を見てきたからこそ完成した物語

著者ダンテは、「没落貴族の子孫」とされてきましたが、最近は、誤解を恐れずに表現するなら「裕福な質屋」だったと考えられています。実家は貴族よりむしろ庶民寄りで、そこに貴族や小工場の経営者、庶民などあらゆる階層の人がお金を借りに訪れ、あるいは大銀行などとの関係もありました。さまざまな事情を抱える彼らをダンテは鋭い目で観察しました。それが『神曲』の人物描写を生み出したのです。この作品は、狭い範囲の人々との付き合いからは到底描けない、リアリティのある人物描写が高く評価されています。それまでこのような作品はなく、作者自身の生い立ちや、当時の社会情勢が影響しているのです。

平和への思いを込めたダンテの『神曲』

ダンテは『神曲』執筆前に政治闘争に敗れ、フィレンツェから追放されています。庶民と大資本との利害が衝突する政治闘争は現代にも通じます。しかし作品の大テーマは、争いや戦争を超え、平和なのです。ダンテは、1307年から1321年の死の直前まで執筆を続けました。世界に冠たる作品である『神曲』の最終部である天国編は、闘争に明け暮れる有力者や教皇庁の政治方針に批判的であったため、出版が困難でしたが、詩人の没後に息子たちの手で自費出版されたのです。

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東海大学 文化社会学部 ヨーロッパ・アメリカ学科 准教授 原 基晶 先生

東海大学 文化社会学部 ヨーロッパ・アメリカ学科 准教授 原 基晶 先生

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ヨーロッパ文学、イタリア文学、人文学

メッセージ

太宰治の『走れメロス』は、メロスや友人、王との友情の熱気が高まる感動シーンで終わります。が、実は事態は変化していません。この作品は、戦意高揚に酔う1940年に書かれ、実は時代の空虚を描いたとも解釈できます。文学作品は、社会情勢を反映したものが多くあります。その背景を踏まえて丁寧に読むと、人は新しい世界に出会えるのです。そして、こうした読み方は誰かに惑わされない訓練にもなります。文学研究は、あなたが、あなたの人生の主人公として、惑わされずに自分自身の人生を歩むためにあると、私は考えています。

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