コミュニケーションで大切な「小さな単語」
アンデルセンの『はだかの王さま』
アンデルセンの『はだかの王さま』は、仕立屋に扮(ふん)した詐欺師が「ばかの目には見えない布地」で王さまの服を作ります。ばかだと思われたくない王さまは、その服を着て(実際は下着姿で)パレードをします。周りの大人もやはりばかと思われたくないために見えないとは言いませんが、それを見た子どもが「王さまははだかだ」と叫ぶというお話です。
気持ちを伝える心態詞
この子どものセリフはデンマーク語の原文では、「Men han har jo ikke noget på.」です。Men は英語のbut, hanはhe、harはhas、ikke nogetはnothing、påはonです。これらを日本語に直訳すると「だけれど、彼(=王さま)は何も身につけていません」という意味です。それでは残るjoは何をしているのでしょうか?このjoは話し手が自分の主観的な気持ちを伝える「心態詞(しんたいし)」という役割をするもので、「(話し手の)自分が言っていることは、(聞き手の)あなたも同意してくれるはずだ」というニュアンスを伝えています。つまり、この子どものセリフには「王さまは何も着ていない!」という事実に加えて、「王さまが何も着ていないことは、(王さまの新しい服が見えるかのように装って、褒め讃えている大人の)あなたたちもわかってるよね」という話し手(=子どもの)の意図も込められているのです。たった2文字の小さな単語ですが、この心態詞の役割をきちんと理解できると、この子どものセリフのより深い理解につながります。
コミュニケーションで重要な役割
心態詞はドイツ語・スウェーデン語・ノルウェー語などにも存在しています。またデンマーク語には、jo以外にも複数の心態詞があります。どれもとても小さな単語ですが、コミュニケーションを図る上で大切な役割を果たしています。心態詞が全く使われない会話は実際不自然に感じられます。ですから外国人学習者にとっては、必要だけれども習得が難しいものの1つです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 外国語学部 外国語学科 デンマーク語専攻 講師 大辺 理恵 先生
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