「文学」は、時代を超えて心を揺さぶるもの
「コミュニケーション言語」と「文学の言葉」
芸術にもなりうる文学や文化に関わる人間の営みは、すべて「言語」からはじまります。私たちが日常生活で使っている言葉は、意思を伝え合うためのコミュニケーション言語であって、互いに理解し合うことが一番の目的です。しかし文学の言葉は、コミュニケーション言語とは異なり、わかりづらいというところにポイントがあります。なぜなら、わかりづらいと人間はそこで立ち止まって考えるからです。
最小の文学「ヴィッツ」
ドイツの文学の最小単位の一つに「ヴィッツ」というものがあります。これは小説よりも短い文章で、なおかつ時代を超えて読めるジョークのようなものです。その一例を紹介しましょう。
「ミンナ、このクモの巣はどこから来たんだい?」「きっとクモからですよ、奥さま」
これは奥さまと、ミンナという家政婦とのやりとりです。奥さまは家政婦に、ちゃんとそうじしないからクモの巣が張っているのだと指摘し、家政婦の怠慢をとがめようとしています。家政婦の「すみません」という返事を期待しているのです。しかし家政婦は無意味な答えを返すことで、奥さまが本当に聞きたかった回答を回避し、その非難をかわしています。これは現在の漫才やお笑いにも通じる、文学的な効果です。
文学は時代を超える
文学は時代の産物だという側面もありますが、このように人間に関わる文化の一形態として、普遍的な人間を追究するという側面もあります。優れた文学作品というのは時を超えて、人間そのものの性質を伝え、コンピュータ時代の私たちの心をも揺さぶるような力があるのです。ドイツ文学研究者の小岸昭は著作『マラーノの系譜』の序文で、「文学は、ある意味では勝利者の手によってつくられてゆく歴史への反逆である」と書いています。
ドイツ語は歴史も物語も同じ「Geschichte」という単語を使って表しますが、一つしかない歴史に対して、歴史では語られないいくつもの物語があるということがいえるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 人文社会学部 人文学科 教授 園田 みどり 先生
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人文社会学、ドイツ文学先生への質問
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