現物が目の前になくても、なぜ人はそれについて話ができるのか
世界は記号であふれている!
世の中のさまざまな営みは「記号」により成り立っています。これは意味づけされた図形的なものとは限りません。それらは「アイコン」「インデックス」「シンボル」の3つに分類できます。アイコンはひと目でそれとわかるものです。高校生の制服やランドセル、非常口を表すサインなどもそれにあたります。インデックスは目にした対象が何らかの現象と結びつけられるものを指します。例えば遠くに煙が見えたら、火が見えていなくても火事を連想してしまう、というようなことです。3つ目のシンボルは人間によって意味づけされたもので、知っておかなければ理解できないものです。例えば「+」(クロス)には、加算の意味のほか、キリスト教のイメージもあります。シンボルは人間特有のもので、言語もシンボルに含まれます。
言葉ではなく概念で通じ合うとは?
私たちは言語があるお陰で、現物がその場になくても、物や体験などについて誰かに話し、伝えることができます。日本人とドイツ人がイチゴについて話そうとするとき、イチゴを表す互いの言葉を知らなくても会話は成り立たせることができます。なぜなら人は「甘い、小さい、赤い、果物である」といったイチゴを概念化した言葉をもっているからです。これらも記号です。このように、似た概念をもってさえいればコミュニケーションは成り立ちます。
翻訳しにくい言葉は文化や思想の象徴
反対に共有しにくい言葉もあります。それがその国特有の言葉であり、一般に翻訳しにくいといわれる言葉です。「先輩・後輩」「お疲れさまでした」「わびさび」などは日本語ならではの表現で、日本語を母語としない人たちに伝わりにくいものです。しかし裏を返せばこれらは日本文化の象徴でもあり、日本人の思想のベースともなっています。当然、翻訳できない言葉は日本語だけでなくすべての言語にあります。
世界を記号論の視点から考えることは、言語の深い探究に通じるのはもちろん、さまざまな文化理解の助けにもなるのです。
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福岡大学 人文学部 ドイツ語学科 准教授 ライヒャルト アンドレ 先生
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