農業工学の細胞評価技術が秘める大きな可能性
鶏のヒナの殺処分を回避するために
世界では食肉用の鶏の需要が高まっています。食肉用の鶏と卵を産む鶏は別の品種で、食肉用の鶏は生育が早いオスだけを残して、メスはヒナの段階で処分されます。卵を産む鶏の場合はその反対に、オスがヒナの段階で処分されます。産卵用の鶏の場合、年間60億羽のヒナが殺処分されています。
もし、卵を割らずにオスかメスかを判別できるか、光などを使って産み分けができると、効率的に生産できるとともに、ヒナを殺処分する必要はなくなります。現在、卵に光を通す非破壊の技術で、できる限り早い段階でオス・メスを判定しようという研究が、農業工学の「生物センシング工学」分野で行われています。
水分子で「細胞の質」を測る
私たちが食べているリンゴやミカンは光センサーで糖度を測り、おいしいものが選別・仕分けされたものです。ここには、生物という複雑なものを数値化する技術が使われています。その延長線上に、細胞の質を測る技術があります。果物だけでなく肉も魚も細胞の集まりなので、従来の技術では難しかった鮮度などの新しい付加価値を生み出すことが可能になると考えられます。
細胞のほとんどが水分です。そこには水の情報がたくさんあるはずです。実は細胞内の水分子の振る舞いについてはほとんどわかっていません。従来の細胞の研究では、色をつけて顕微鏡でタンパク質やDNAを観察していましたが、水は透明で色をつけることができず、十分な研究手法がなかったからです。最近になって、テラヘルツ領域の光を使って、細胞内の水分子の情報が測定できるようになりました。
医療の分野への応用も
テラヘルツ分光という技術によって、細胞内の水分子の約25%がタンパク質などの生体分子や小器官に付いていて、ほかの水分子は比較的自由であることが数値でわかるようになってきました。これらの数値から細胞の質を評価できる可能性を秘めています。この技術は農業分野のみならず、創薬や医療における細胞の診断にも使える可能性があると考えられ、研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 農学部 地域環境工学科 准教授 小川 雄一 先生
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