『源氏物語』が日本の古典文学の最高峰と言われる理由
世界が驚いた! 作者は11世紀の女性
『源氏物語』は、平安時代中期に書かれた日本最古の長編小説です。当時は物語の作者が署名するという習慣がないので、紫式部が作者であるという決定的な物証は、実はありません。しかし『紫式部日記』の記述などにより、彼女が作者であることがほぼ定説となっています。
英訳本が出版された20世紀の初め、世界の人々が驚いたのは、11世紀初頭の女性が長編物語を書いたという点です。同じ時期のヨーロッパでは、女性がこれほど大部の小説を書くことなど考えられませんでした。源氏物語は漢文の引用も多く、それだけの教養のある女性がその時代の日本にいたことが、彼らを驚かせたのです。
共感を呼ぶリアリティ
源氏物語の特徴は、「リアリティ」です。源氏物語より昔に書かれた作品に『竹取物語』や『うつほ物語』などがありますが、いずれも月世界のお姫様や天人が登場するおとぎ話です。源氏物語はそういうファンタジーの要素をなるべく排除して、リアリティに富んだ世界を創り出しています。
主人公の光源氏と、彼を取り巻く多くの登場人物一人ひとりの性格や感情が、非常に繊細に表現されていることも、たくさんの読者の共感を呼んだ要因の一つです。読者は登場人物の誰かに自分の心情を重ねることができます。波瀾万丈の恋物語がどれも必然性をもって書かれており、美しい自然描写とあいまって胸に響くのでしょう。
紫式部は天才か
源氏物語は、「前例のないところから突然生まれた傑作で、紫式部は奇跡を起こした天才」と言われた時代がありました。しかし紫式部以前にも女性が仮名で書いた作品はあります。例えば『蜻蛉日記』は、ある女性が自分の結婚生活を記したものです。夫の浮気に悩まされたことなど細かな心理描写がされており、紫式部も手本にしたと考えられています。それらを取り入れて昇華させたのが源氏物語なのです。紫式部が天才と呼ばれるゆえんは、千年前の文学が21世紀のいま読んでも素晴らしいところにあると言えるでしょう。
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京都大学 文学部 教授 金光 桂子 先生
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