サプリメントを「化学」する

サプリメントを「化学」する

体の隅々に存在

近年さまざまなサプリメントが人気です。その中には、体内でつくられる物質もあります。例えば、「コエンザイムQ10」は学術名を「ユビキノン」と言い、私たちの体を構成する60兆個と言われる細胞の中、特にミトコンドリアに存在しています。ユビキノンの働きを通じて、人体の世界をのぞいてみましょう。

あるときは運び屋

私たちは体内に取り込んだ酸素と食物を、複雑なプロセスを経て二酸化炭素と水とエネルギーに変えています。これは光合成の逆です。主要な作業はミトコンドリアの内部で行われます。ですからミトコンドリアはよく、「エネルギーの産生工場」と呼ばれます。ここでは糖や脂質に分解した食物から水素を取り出し、その水素から電子を抜き取ってバケツリレーのように電子を運び、最後に酸素と反応させて水にする、ということをしています。エネルギーは、このリレー作業のときに生まれ、電子を運んでいる仲間の1つがユビキノンなのです。

あるときはなだめ役

通常、原子や分子の軌道電子は2個ずつ対になって存在し、安定な物質やイオンを形成します。ここに熱や光などの形でエネルギーが加えられると、化学結合が二者に均一に解裂することによって不対電子が生じ、活性で短寿命の化学種が発生します。これを「フリーラジカル」と言います。不安定なので、ほかの化合物から電子を奪い取って安定化しようとするのです。電子を奪われた化合物は、安定化しようと同じことを周囲の化合物にしかけますので、電子喪失(化学的には酸化を意味する)が、周囲に連鎖的に広がっていってしまいます。
この事態を収拾するのがユビキノンのもう1つの特性である抗酸化物質としての働きです。フリーラジカルに電子を供給し、力を鎮めてしまうのです。老化とは、細胞や組織が酸化して機能が衰えることでもありますから、ユビキノンには酸化防止=アンチエイジングも期待されています。コエンザイムQ10が女性に人気なのもうなずけます。

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先生情報 / 大学情報

京都大学 農学部 応用生命科学科 教授 三芳 秀人 先生

京都大学 農学部 応用生命科学科 教授 三芳 秀人 先生

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応用生命科学

メッセージ

応用生命科学科は、以前は「農芸化学科」と称し、全国の農学部に設置されていました。その昔、私は生物と化学が好きな高校生でした。私が進路に迷っていた時、「農学部には生物と化学の境界の勉強ができるところがあるよ。農芸化学と言うところだよ。」と理科のS先生が示唆してくださいました。私は迷わず農芸化学科に進学することを決意した記憶があります。もちろん、人生の大半を「農芸化学科」の研究に費やすとは、高校生の時には考えていませんでしたが。

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