イラストレーションのパワー

イラストレーションのパワー

英語教科書のイラストレーション

一般的にイラストレーション(以下イラスト)とは、挿絵や図解のことを言います。私たちは本や雑誌、教科書、そのほかさまざまなメディアで、たくさんのイラストに出会っています。そして多くの場合、何気なく見ているものです。
しかし、イラストを注意深く見ていくと、「文字=テキスト」だけでは伝わらないメッセージがたくさんあることに気づきます。例えば英語の教科書ですが、初級の英語教育のテキスト(本文)は、明治時代から現在まで、そんなに大きな違いはありません。しかしイラストは大きく変わっています。そこに英語教育にこめられた、それぞれの時代の思いや国の政策が見えてくるのです。

強さや自由の象徴として

1889年の『正則文部省英語読本』には、日本の生活様式の中に西洋風のテーブルや服装が持ち込まれたイラストが載っています。ちぐはぐではありますが、時代は西洋に追いつき追い越せという「欧化政策」の真っただ中だったのです。英語は欧米の強国の象徴であり、彼らに対する当時の日本人のあこがれのまなざしがイラストから伝わってきます。
また、1916年の『Girl’s New Taisho Reader』には、おしゃれな洋装の若い女性がテニスをしている絵や、少女が高級家具で飾られた広い個室で勉強している姿が登場します。こうしたイラストから、当時の女性たちが、英語を学ぶことによって、自由でエネルギッシュな未来が獲得できるというメッセージを受け取ったとしても不思議ではないでしょう。ここにイラストのパワーの一つがあります。

政治的プロパガンダにも……

一方、第2次世界大戦の時期、「This is a map.」という単純な英文に添えられたイラストは、当時日本が支配していた(しようとしていた)東南アジアが描かれているなど、イラストが国民を戦争に駆り立てる役割をもったことがうかがえます。イラストが政治的なプロパガンダ(宣伝)として利用されてきた歴史があることも、私たちは知っておく必要があるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京大学 教養学部 超域文化科学科 教授 寺田 寅彦 先生

東京大学 教養学部 超域文化科学科 教授 寺田 寅彦 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

比較文化学

メッセージ

「学びて思わざればすなわちくらし、思うて学ばざればすなわちあやうし」という孔子の言葉があります。つまり、ただ勉強するだけではだめで、勉強したことを自分で考えなければいけない。また、自分一人で考えているだけでは独断になってしまうので、やはり勉強をしなければいけない、という意味です。私たちに必要なことは、まさにこの言葉の通りです。特に若い人ほど、大切なことだと思うので、高校生のあなたには、ぜひ、「勉強すること」と「考えること」をともに進めてほしいと思います。

東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。