鉄を使って環境を浄化する? 磁性体の活用法

鉄を使って環境を浄化する? 磁性体の活用法

マグネタイトという磁性体

鉄という材料はいろいろなところにさまざまな形で使われています。その中で、磁力を帯びる磁性体の酸化鉄「マグネタイト」を使って環境浄化をする研究が進められています。マグネタイトの化学式はFe₃O₄と教科書には記されていますが、実際はきれいな整数比ではなく、鉄の原子がいるべきところにいない場合があります。溶液の中でマグネタイトと金属鉄を混ぜると、金属鉄がその空いた場所に入り込み、鉄と酸素の比を3:4に保とうとします。この時に何らかの活性物質が出て、有害物質を分解するのではないかという仮説が出てきました。これが証明されるとマグネタイトを使った環境浄化の秘密がさらに明らかになります。

メスバウアー分光法で測定

例えば、毒性が非常に強いトリクロロエチレンという物質は、これまでは微生物に分解させるか活性炭に吸着させるなどしかなかったのですが、マグネタイトと金属鉄の混合によって分解できることがわかりました。金属鉄とマグネタイトを混ぜて有機物を分解した後に残るのはマグネタイトなので、磁石につけて回収することができます。汚れたところを浄化剤などを使うことなく、毒性物質を分解できるのです。
汚れを取る前と後でマグネタイトの構造にどう変化があるのかを調べるには、放射線(ガンマ線)で材料を壊すことなくレントゲンのように調べられる、メスバウアー分光法が使われます。こうした調査で分解に使われる物質が特定できれば、より確実な環境浄化への活用ができるでしょう。

境界領域の研究

磁性体で環境浄化というのは魅力的な活用法ですが、磁性体を作る研究者は環境の分析に詳しくなく、環境の分析技術を知っている人は材料の原理まで考えない傾向にあります。そこで両方の知識を持っている科学者が必要です。すべてを知らなくても、どういう概念や手法があるかを知っていないと、境界領域の研究は進まないので両方の引き出しを持った人材が求められているのです。

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先生情報 / 大学情報

東京都立大学 理学部 化学科 准教授 久冨木 志郎 先生

東京都立大学 理学部 化学科 准教授 久冨木 志郎 先生

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化学、同位体化学

メッセージ

私の研究では放射線を使って鉄をはじめとした材料を計測しています。「放射線」「放射能」というと危険に思われるかもしれませんが、法令に基づいた厳しい基準によって管理して、有効利用しています。みんなが危ないというから危ない、ではなく何が本当に危ないのか、どういう基準で何を計ってその数値が出ているのかを科学的に評価した上で判断し、危なくないように利用するのが科学者のものの見方です。放射線を使って、原子力発電に頼らない、環境に優しい装置の開発をすることだってできるのですから。

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東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。