光が生み出す熱で、ナノ物質を自由にコントロール

光が生み出す熱で、ナノ物質を自由にコントロール

未知なる物理への扉が開く?

物質に光を当てると、原子の自由電子が集団で移動する「プラズモン励起(れいき)」という現象があり、励起された電子の一部は熱に変わります。フェムト(1000兆分の1)秒からナノ(10億分の1)秒といった世界の話ですが、この熱は実にわずかで、数ナノ秒で消えてしまいます。また、「金」のナノ粒子を使うと効率的に熱を発生させられることがわかってきました。
さらに光を当て続ければ、金ナノ粒子を中心に小さな熱量を発生し続ける極小の空間が生まれます。これは一般的な熱力学から一歩進んだもので、これまでと違う物理現象が起こりうる可能性を秘めています。

ナノサイズを自由に動かす

小さな熱が水の中で十分高温になると小さな沸騰が起こり、マイクロメートル以下の気泡を生み出せます。この技術を応用すると、5~30ミクロンくらいの光ファイバーを使って血管の中にマイクロバブルを作る、またはバブルの周辺に生じる熱対流を起こすといったことが可能になります。
現在、波であり粒子でもある光が持つ、10億分の1ニュートンレベルの微弱な圧力を利用した「光ピンセット」の研究が進んでいますが、それとは違い、こちらは光による熱でマイクロバブルをコントロールするものです。微粒子を乗せた泡を特定の器官に出し入れしてナノ医療に役立てるなど、光ピンセットと同様の活用法の研究が進んでいます。
実は先ほど述べた金のナノ粒子は数十ナノメートルほどで、思い通りの場所へ動かすのは困難です。しかしこれも10マイクロメートルくらいのガラスビーズに乗せれば、光はガラスを透過するので、金のナノ粒子だけを操作するのと同じ効果を得られます。

光と熱で変わる未来の生活

現在のレーザー医療のさらなる進化も期待できます。プラズモン加熱により細胞に数十ナノの穴を空けることができれば、治療範囲がさらに極小へと狭まります。すると神経まで熱が届かず、全く痛くない手術が実現できますし、何より体が傷つく範囲が小さく、リスクをそれだけ小さくすることになるのです。

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徳島大学 理工学部 理工学科 光システムコース 准教授 柳谷 伸一郎 先生

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メッセージ

物理学には「保存則」という言葉があります。ある物体から出てくる物理量は、入ってくる量と物体自身の増減量で釣り合うというものです。これを私たちに置き換えてみると、私たちが出せるアウトプットは知識や経験として入ってくる(インプット)量と、自分が変化した(させた)量によって決まると考えています。
高校時代は特にインプットに適した時期です。部活や学校の勉強だけでなく、最近ではさまざまな情報がインターネットにあり、AIやビッグデータなど情報をいかに活用するかについても学ぶこともできます。頑張ってください。

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