泡と超音波で患者さんに優しい医療を

泡と超音波で患者さんに優しい医療を

副作用を和らげるために

抗がん剤には、がん細胞の増殖を抑える効果がありますが、髪が抜けるなどの副作用も生じます。毛根など、がん細胞以外にも薬の成分が行き渡ってしまうからです。副作用を和らげるためには投与する薬の量を少なくすることが理想ですが、減らし過ぎると治療の効果が得られません。もし、がん細胞にピンポイントで薬を運ぶシステムを構築できれば、投与量を減らし、副作用を軽減することが可能になるでしょう。こうした薬を運搬する仕組み(ドラッグデリバリーシステム)を考える分野を、薬物送達学といいます。

泡と超音波で薬を届ける

がん細胞に選択的に薬を届けるために、マイクロバブルと超音波を使った方法が研究されています。マイクロバブルは1~2マイクロメートルの小さな泡で、血流を検査するための超音波造影剤として使われてきました。超音波を当てると泡が振動する性質を使って、薬物送達にも役立つ可能性が見いだされたのです。薬と一緒に泡を血液中に投与し、体外からがん細胞に超音波を当てると、超音波を当てている箇所でのみ、体内に送り込んだ泡が振動し、血管を押し広げ、抗がん剤ががん細胞に送り込まれ、効果を発揮するわけです。しかし、超音波造影のために作られる泡は、体内を数周すると消えてしまいます。薬物送達に使うためには、血液中を何周も循環できるような泡が理想です。そこで脂質から作った殻で泡を覆うことで、血液中を何周もできるようになりました。

患者さんの負担を減らすセラノスティクス

マイクロバブルは超音波造影剤としての役割も果たせるため、診断をしながら治療が行えます。診断と治療を同時に試みる分野は「セラノスティクス」と呼ばれています。現在は診断をした後に治療をすることが主流ですが、セラノスティクスが実現すれば患者さんの身体的な負担が減り、患部に対してピンポイントで治療をすることができます。薬物送達学は、患者さんに優しい医療を提供するための研究ともいえるのです。

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先生情報 / 大学情報

帝京大学 薬学部 薬学科 教授 鈴木 亮 先生

帝京大学 薬学部 薬学科 教授 鈴木 亮 先生

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薬学

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メッセージ

高校時代は好きな教科はもちろん、そのほかの領域にも関心を持ってほしいです。社会や歴史などの幅広い知識は会話のきっかけにもなります。医療分野では、患者さんの悩みを聞き出して問題を解決していくので、スムーズなコミュニケーションをとるためにも知識は多いに越したことはありません。
社会人になると幅広い分野を勉強できる機会はそれほど多くないので、ぜひ大学での時間を役立てましょう。またモチベーションを保つためにも、進路選択では周囲の意見ばかりを聞くのではなく、自分の意志を尊重してください。

先生への質問

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医療系・文系・理系と幅広い分野の10学部32学科を擁する総合大学です。医学部・薬学部・医療技術学部を擁する板橋キャンパスの最大の特長は、医学部附属病院が隣接している点。学生は救命救急センターやERなど最先端の医療を、実習を通し体感できる場ともなっています。都心へのアクセスも良好であり、キャンパス最寄りの十条駅から池袋駅へ7分程度で行けますので、ショッピングなども気軽に楽しめます。