「統計物理学」で、社会現象を科学的に分析
人間の社会・経済活動を科学で分析
人間の社会活動や経済活動が、自然現象と同じ数理モデルで説明できることを知っていますか。一見無関係な両者の間には、実は共通する普遍的なモデルがあります。例えば、感染症とSNSのデマについてみてみましょう。感染症は人と人との接触で感染が広がります。SNSのデマは、リツイート(接触)によってデマを知った人が興奮状態(発症)に陥って、さらにリツイートすることで拡散し、やがて飽きる(治癒)とリツイートされなくなり終息します。物理的な本質だけを見ると、現実世界で起きる感染症の広がりと、バーチャル空間でのデマの拡散が同じ関数で記述できるのです。人間の社会活動や経済活動を科学の対象として統計物理学で分析する学問領域を、社会物理学や経済物理学と呼びます。
企業と粒子を支配する数理モデル
別の例を挙げましょう。企業同士の取引のネットワークができるプロセスは、粒子の生成プロセスによく似ています。工場からの排気に含まれる微小な粒子「エアロゾル」はランダムに空気中を漂い、互いに衝突すると凝集して大きくなります。このエアロゾルの衝突・凝集プロセスと同じ方程式で、企業の合併プロセスも記述できます。またエアロゾルの大きさの分布や企業の大きさの分布が「べき分布」(大方が0に近い小さな値だが桁違いに大きな値まで連続的に存在し、分布のグラフの裾野が非常に長い分布)になることも、同じ数理モデルで説明できます。
幅広い分野の現象を解明
複雑な社会現象を方程式で表すことができれば、例えば災害時にどのような被害が生じるかなどをシミュレーションで予測することができます。社会現象を科学の対象とする社会物理学が盛んになったのは、社会科学系のデータが大量に蓄積されるようになったためです。今後さらに技術革新が進んで生物系のデータが増えてくれば、脳のネットワークや細胞同士の相互作用など、生命科学の分野へも統計物理学の視点からアプローチできるのではと期待されています。
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先生情報 / 大学情報
東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 情報理工学院 (科学技術創成研究院) 教授 高安 美佐子 先生
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先生への質問
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