DNA分析を通して知る水中の生き物の多様性と進化のストーリー
同じようで違う生き物
水の中で暮らす生き物たちは自由に水中を行き来しているように見えますが、海域や水系ごとに隔離されていることが多いです。例えば、アゴハゼという魚は日本沿岸に普通に見られますが、日本海側と太平洋側の集団間では遺伝子がはっきりと異なっています。また違いはわからないけれど実は別種という例もあります。日本全国の干潟に生息するあるカニには、同じ場所に暮らしていて姿形にもほとんど違いはありませんが、互いに交配しない2つの種が含まれています。このような地域による遺伝的な違いや互いに似ているけれど実は別種といった関係は、肉眼では捉えることが難しいですが、DNAを調べることで明らかにできます。
PCR分析
生物集団の遺伝的な違いや進化を調べる研究は、1980年代後半に登場したPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術によって大きく発展しました。微量なDNAをPCRによって数千万倍にコピーできるため、遺伝子の塩基配列を正確に読むことができます。また、組織のほんの一部を採取すれば良いので、生物を殺さずにすみます。さらに最近では「環境DNA」といって、水の中に漂っているDNAの塩基配列を調べ、そこに生息する生物種を推定できるようにもなっています。
遺伝的多様性と生物の保全
遺伝的多様性とは種内に存在する遺伝的な違いです。集団中に見られる違いと、地理的に隔離された集団間の違いの2つの側面があります。地理的に隔離された集団間の違いは、最初は小さなものであっても時間の経過とともに大きくなり、将来的には別種にまで進化する可能性があります。現在、地球上に見られる膨大な数の種は多くの場合このようにして生まれてきたと考えられています。遺伝的に違いのある個々の集団は現在同種であっても、将来的には新たな種の創出(種分化)に繋がる可能性を持っていると言えます。生物の保全というと人間の利用に焦点を当てた「持続可能性」をイメージしますが、個々の集団が別の種に進化する可能性を保障するという側面もあるのです。
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先生情報 / 大学情報
東北大学 農学部 生物生産科学科 海洋生物科学コース 教授 池田 実 先生
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