小さなサクラソウが教えてくれる種を守ることの大切さ
古くから人々に愛されてきた花
春先になると、かわいいピンク色の小さな花をつける「サクラソウ」は、その名の通り、桜に似た花を咲かせる多年草(2年以上生きる植物)で、かつては日本各地で見られました。その歴史は古く、室町時代から貴族が栽培し、将軍・足利家に献上したという記録も残っています。さらに江戸時代に入ると、品種改良が行われ、園芸品種として広く愛されるようになりました。今では花の形や色、模様、花のつき方などで350以上もの品種が楽しまれています。
絶滅の危機から守りたい
サクラソウは、落葉樹林の近くの渓流や田畑の脇の水路沿いなど、湿り気があり、春になると太陽の光が射し込む場所を好みます。しかし開発などで生育地がなくなって数が減り、2000年には絶滅危惧種に指定されました。
日本の原風景であるサクラソウが咲く光景を守ろうと、NPOや地域のボランティアが立ち上がり、外来種の除去や荒廃した森林の整備などが行われています。地道な保全活動のおかげで現在は危険度が少し低い準絶滅危惧類となりましたが、まだ安心できる状況ではありません。
遺伝子の多様性を未来に残す
サクラソウを守る適切な方法を探ろうと、研究も進んでいます。遺伝子を調べると、地域や集団ごとに個性があることがわかりました。同じ種でも個性の違う遺伝子を持つことを、「遺伝的多様性」と言います。これは、環境に適応して種が生き残るために、大切な能力です。例えばサクラソウは、地域ごとに最適な時期を見極めて芽を出す遺伝子を持っています。ですから異なる地域のものを混ぜて育てると、次世代ではその能力が失われてしまい、それぞれの地域の環境に適応できなくなる危険性があるのです。
サクラソウを守ることは、花粉を運ぶハチやハチの住み家を提供するネズミなどを含む生態系全体を守ることでもあります。生物はみんな支え合って生きています。種の遺伝子を未来に残すということは、その土地にすむ生き物の命を守り、豊かな環境を維持し、生物多様性を保全することにつながるのです。
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