サクランボの研究から、植物の新しい受精メカニズムを発見

サクランボの研究から、植物の新しい受精メカニズムを発見

自家和合性と自家不和合性

多くの植物は、自らのおしべの花粉がめしべに着いて発芽し、花粉管を胚珠に伸ばし受精して種ができます。このように自家受精して種ができる性質を「自家和合性」と言います。これに対して、自らの花粉や遺伝的に近い樹木の花粉では受精しない性質を「自家不和合性」と言います。サクランボなどのサクラ属果樹にはこの性質があります。このような樹木を受精させるには、近くに遺伝的に遠い樹木を植えるか、そのような樹木の花粉を昆虫に媒介させるか、人工受粉する必要があります。遺伝的多様性を保つため、野生植物の7割は自家不和合性であると考えられていますが、多くの作物は栽培化の過程で、品種改良されて自家和合性になっています。

自家不和合性はいかにして起こるか

サクランボの自家不和合性について、現段階で30種類以上の「S遺伝子」と呼ばれる不和合性遺伝子があることがわかっています。これらには、花粉側で作用する遺伝子とめしべ側で作用する遺伝子があります。この2つは組になっていて、それを「Sハプロタイプ」と呼んでいます。めしべの中の花粉管が通るところには、花粉管の伸びを阻害する「RNA分解酵素」があり、花粉とめしべのSハプロタイプが同じだとこの酵素が細胞毒として働き、花粉管が伸びなくなって受精できません。一方、花粉側の遺伝子はタンパク質の分解制御に関わっています。Sハプロタイプが異なると、このRNA分解酵素が不活性化され、花粉管の伸びが阻害されなくなって受精できます。

サクラ属果樹の遺伝子解析の意義

これらの自家不和合性の研究は日本発のもので、植物の受精の謎に新しい知見をもたらしました。特に、サクラ属果樹の遺伝子解析から、これまでは画一であると考えられていた花粉側の遺伝子の働きに多様性があることが初めて明らかになりました。もとは農家の収穫量の安定や、自家不和合性から自家和合性への品種改良といった実用目的の研究でしたが、自家不和合性に関する新しい研究の方向性を示すことになったのです。

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京都大学 農学部 農学専攻園芸科学講座 教授 田尾 龍太郎 先生

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