熱するほど、冷めやすい? 音波でつくるエンジンとは?

熱するほど、冷めやすい? 音波でつくるエンジンとは?

古くて新しい「熱音響現象」とは?

私たちの身近なところにある「熱」や「音(波)」ですが、熱と音波が相互作用する、「熱音響現象」というものがあります。例えば、真ん中に金属製のメッシュを入れた細い管の片方を熱すると、管の反対側の口から音が響いてきます。この音は、熱により発生したものです。この現象自体は、19世紀には知られていましたが、細い管の中に音波を入れると、温度差が生じて冷却作用が起こる逆の現象は1970年代になってわかってきました。ようやく最近になって、こうした熱音響現象の特性を応用した「熱音響エンジン」「熱音響冷却器」など、熱音響デバイス(機器)の研究が世界中で進められています。熱源として、工場からの廃熱や太陽熱を用いることも可能で、新しいエネルギー変換デバイスとして注目されています。

動く部品がない熱音響エンジン

熱により空気が振動し、音波が発生する現象を利用したものが、熱音響エンジンです。これはガソリンエンジンなどが固体ピストンを動かす代わりに、音波(気体の振動運動)を用いて、エネルギー変換を行います。
熱音響エンジンは、ほかのエンジンと同じく「加熱・冷却・圧縮・膨張」のサイクルを利用しますが、共鳴管、蓄熱器、一対の熱交換器だけの、非常に簡単な構造となっています。ガソリンエンジンのような緻密で複雑な可動部品が必要なく、誰でも組み立て可能で、維持、管理や修理も簡単です。そのため、道具や設備の不足しがちな地域、また海洋上や宇宙での利用が期待されます。

まだまだ謎が多い

熱音響エンジンのさらなる性能向上のためには、エネルギー変換のメカニズムの解明が必要です。同時に新たな熱音響エンジンを提案し、その定量的効率評価を行うことも必要です。また熱音響現象を実験的に理解するために必要な計測技術は十分に確立されていないので、基盤となる実験技術の確立も重要です。そのほか熱音響現象には、熱音響カオス、熱音響衝撃波など非線形な現象が見られ、基礎的な研究対象としても注目されています。

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先生情報 / 大学情報

東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 教授 琵琶 哲志 先生

東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 教授 琵琶 哲志 先生

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熱音響工学、熱工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私の取り組んでいる熱音響エンジンの研究の場合、構造が単純なだけに、今あるものをもとにして考えるだけではなく、思いつきのような新しい発想が研究を進めます。しかも解明されていない部分が多く、取り組み始めるともっともっと研究したくなるものです。
大学での研究では、今、役に立つ研究かどうかだけでなくて、「面白いから、研究したい」という気持ちが大切だと思います。論理的思考力と、面白さを感じとれる「感性」を磨くために、数学や物理などの勉強は必要なのだと思います。

先生への質問

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東北大学に関心を持ったあなたは

建学以来の伝統である「研究第一」と「門戸開放」の理念を掲げ、世界最高水準の研究・教育を創造しています。また、研究の成果を社会が直面する諸問題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の実現に貢献して行きます。社会から知の拠点として人類社会への貢献を委託されている東北大学の教職員、学生、同窓生が一丸となって、「Challenge」、「Creation」、「Innovation」を合言葉として、価値ある研究・教育を創造して、世界の人々の期待に応えていきたいと考えます。