農作物をもっとおいしく安全にする「遺伝育種学」の可能性
より正確に効率よく品種をつくる設計図
2000年を境に、植物の遺伝情報の解読が進んだことで、新たな農作物を開発する品種改良も飛躍的な進歩を遂げました。品種改良は、農作物研究の世界では王道ともいえる分野ですが、従来は、品種同士の交配を繰り返す方法で、研究者の経験や勘、偶然に頼る部分もありました。
しかし、農作物ごとに遺伝情報が解読された現在では、遺伝子の「設計図」を基にした研究が可能になり、研究・開発の精度と効率が大幅に向上しました。丈夫で病気に強い品種や、おいしい作物が次々に開発され、私たちの食生活を豊かにしています。このように、遺伝情報を用いた品種改良を研究する学問が「遺伝育種学」です。
品質重視の日本型農業
遺伝育種学は世界的な人口爆発による食糧不足対策や、環境変化に負けない強い作物づくりのためにも研究されていますが、日本では、おいしさや品質を向上させる研究が盛んです。特に、主食であるコメへのこだわりは強く、イネの遺伝子の解読は日本が世界をリードしていました。遺伝情報を用いることで、食感や香り、理想の食味をよりピンポイントで実現できるようになり、多くのブランド米が開発されています。TPP(環太平洋連携協定)の発効に向けて、アメリカ型の低コストで多収性を重んじる大規模農業に注目が集まっていますが、味や品質、安全性を追求する日本型農業の価値も高いといえます。
大きな可能性を秘める「ゲノム編集」
近年は、染色体に含まれる遺伝情報に直接働き掛け、遺伝子を自由に設計できるゲノム編集という技術も登場しました。この技術を使うことで、例えば、毒のある芽がでないジャガイモや、栄養価を高めたトマトなど、高度な品種改良が可能になっています。ゲノム編集で作った農作物は、現時点でその栽培規制のルールが決定されておらず問題点もありますが、「遺伝子組換え」よりも、安全性が飛躍的に向上するといわれています。このように、よりおいしく、安全な農作物をつくりだす上で、遺伝育種学は大きな役割を果たしています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
山形大学 農学部 食料生命環境学科 准教授 星野 友紀 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
遺伝育種学、植物育種学先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?