生活行為の改善に働きかける作業療法の力
生活行為の支援
私たちの生活は、仕事や勉強だけではなく、食事や排せつといった日常生活活動(ADL)や、料理や掃除、買い物といった手段的日常生活活動(IADL)など、幅広い生活行為から成り立っています。それらの生活行為は病気や加齢などによって支障をきたすことがあります。例えば高齢になると一人で入浴することが難しくなり、入浴介助のサービスを受ける人が多くいます。しかし、作業療法の視点に立つとそれがベストの支援とは限りません。できないことをサービスとして提供するのではなく、その人が自分で意思決定し、できることを増やすという視点に立って支援を行うのが、作業療法の特徴です。
身体、環境、心の問題
例えば、入浴も「服を脱ぐ」「体を洗う」「浴槽に入る」「濡れた体を拭く」といった複数の工程・手順に分かれています。作業療法においては実際にその場面を見て、指標を用いて点数化することで、その人が苦手としている部分を細かく把握します。その上で筋力を鍛えたり、手すりをつけたり、原因に応じた対策を講じます。「お風呂に入って身ぎれいにして孫に会いにいく」といった、入浴の目的をもってもらうことも大切です。こうした支援は誰にでも同じように適用できるものではなく、身体的な問題や環境、心の面も含め、その人ごとに異なるオーダーメイドの働きかけが求められます。
製品開発にも携わる
生活行為の分析は、製品開発にも役立てられます。例えば手指の機能が弱くなった人でも持ちやすい箸や、手足が動きにくい人が着脱しやすい下着など、作業療法の知見とアイデアが自助具という“モノ”になって多くの人の生活を支えています。また、高次脳機能障害などでパソコンのキーボードを思うように打てない人に対して、その原因を特定し、能力に応じたトレーニングや入力ソフトを開発するなど、日常生活活動(ADL)支援のノウハウは就労支援にも応用されています。障がい者の雇用枠拡大は、国の政策にもなっており、作業療法の求められる分野は今後ますます広がっていくでしょう。
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先生情報 / 大学情報
埼玉県立大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 教授 臼倉 京子 先生
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