「運動」と「高齢者の健康」との関係を科学する
日々の運動は体力にどう影響するか
「運動は健康に良い」と言われますが、運動を定期的に続けている高齢者と、ほとんど運動をしない高齢者とでは、どのくらい体力に差が出るのでしょうか。実は運動を続けていても続けていなくても、高齢者の体力は残念ながら低下していきます。しかし、定期的に運動を続けている高齢者は、そうでない高齢者に比べて体力の低下がゆるやかであることや長生きすることがわかっています。歩くこと、立ったり座ったりすること、服を着るために肩を回すこと、細かい作業をすることといった、日常生活に必要な動作能力は、日々の運動を続けることである程度維持できるのです。
身体が丈夫なだけでは健康とは言えない?
WHO(世界保健機関)は健康の定義を、単に病気や病弱でないことではなく、「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であること」としています。いくら身体が丈夫で持病がなくても、精神的に寂しさを感じていれば、または社会とのつながりがなければ健康とは言えないのです。
現在、高齢者の抱える問題として、地域社会になじめずに孤立したり、孤立からうつを発症するなど、社会との接点を持たないことが原因と考えられる問題があります。また寝付きが悪かったり、眠りの途中で目覚めてしまったり、長く眠り続けられないなど、睡眠に関する問題を抱える高齢者が多いとも言われています。
運動は身体的・精神的・社会的な健康をもたらす
運動を続けるということは、単に体力の向上だけでなく、精神的ストレスの発散にもつながります。さらに一緒に運動を楽しむ仲間を見つけることで社会との接点も生まれます。疲れすぎない程度の適度な運動により、寝付きもよくなります。睡眠障害とうつには密接な関係があると考えられており、実際に運動を続けている高齢者はうつになりにくいというデータもあります。日々の運動を介して地域の仲間や社会とつながることは、身体的にも精神的にも、そして社会的にも健康の増進が期待できるのです。
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先生情報 / 大学情報
埼玉県立大学 保健医療福祉学部 健康開発学科 健康行動科学専攻 教授 北畠 義典 先生
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