科学的に「健康」をとらえる~疫学と保健統計学の世界~
動物実験では得られない「人についての証拠」
現代では、さまざまな研究や動物実験によって生体のメカニズムの解明が進み、医療の進歩に大きく貢献しています。しかし、動物実験で明らかになったことが、そのまま人の生体についての直接的な証拠となるわけではありません。また、人間の細胞を取り出して実験することはできますが、体外で起こったことが、体内でも同じように起こるとは限りません。これだけでは人についての証拠にはならないのです。だからといって、人体実験はもちろんできません。そこでたどり着くのが、「疫学」という手法です。
「疫学」によって人間の健康に迫る
疫学とは、人間を集団でとらえ、実際に起きていることを観察し、病気の様相や原因を究明する学問です。
例えば、ある物質の発がん性を研究するとき、実験室でのさまざまな実験とともに、人間社会で実際にどういう現象が起きているのかが重要な「証拠」となります。ただし、観察なので、実験室での実験のように、細かく条件をそろえることはできません。さまざまな偏りを考慮して、調査対象を設定し、追跡し、比較することが求められます。疫学とは、そうした調査全体をデザインすることと言ってもいいでしょう。疫学調査によって得られたデータを解析するのが「保健統計学」です。両者は一体となって、人の生体についての証拠を探り、国や自治体の保健・医療政策に生かされたり、人々の健康行動への指標となったりします。
科学的根拠に基づいた医療(EBM)
現代の医療では、個々の医療者の経験や慣習ではなく、「科学的根拠に基づいた医療」(EBM:Evidence-Based Medicine)を進めることが求められています。そのためには、疫学で得られる「人の生体についての証拠」は不可欠の要素です。さらに、疫学と保健統計学を学ぶことで、人に対する科学的な視点を培うことができます。それは、医療現場に携わるさまざまな職種にとって、不可欠な資質を養うことでもあるのです。
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先生情報 / 大学情報
埼玉県立大学 保健医療福祉学部 健康開発学科 健康行動科学専攻 教授 延原 弘章 先生
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