医学・薬学にも貢献する「光」の可能性
熱に代わる光エネルギー
高性能材料や医薬品をつくる際、試薬をフラスコの中で混ぜて加熱することで起こる「熱反応」によって、化学合成を行うことが一般的です。しかし、何かを燃やしてつくる熱エネルギーは、地球の限りある資源を消費します。そこで、熱を使わず化学反応を起こす方法として、光エネルギーに注目が集まっています。まだ途上ですが、光と物質がどのように相互作用し、また光エネルギーの注入がどのように物質の変換につながるのかといった研究が進められています。
「振動励起」と「電子励起」
熱を使った合成反応は、150度や200度といった高温状態をつくりだし、高い熱エネルギーをかけて分子を振動させる「振動励起」によって起こされます。これに対して、光を使った合成反応では「電子励起」という状態を起こします。ホタルやクラゲが発光するのも、体内で電子励起が起こっているからです。
可視光は、約400nm(ナノメートル)から800 nmの波長ですが、太陽光の波長はさらに広く、非常に大きなエネルギーをもっています。この大きなエネルギーを効率よく吸収する物質をつくることができれば、原子と原子の結合を切ることができるほどの電子励起を起こすことができます。例えばベランダや窓際にフラスコを置き、太陽光を当てるだけで合成反応を起こす、といったことが可能になるでしょう。
光で薬を制御する
このような光を使った化学反応を応用して、薬を体の必要なところに運ぶ「光ドラッグデリバリーシステム」という技術の開発も進められています。例えば抗がん剤はがん以外の部分にも作用して、強い吐き気や抜け毛といった副作用を引き起こします。抗がん剤をカプセルで覆い、光を使って狙ったところでカプセルを破り、そこだけに抗がん剤が届くようにできれば、患者の体への負担が少なくなります。さらにこれを応用すれば、記憶や睡眠も自在にコントロールできるようになるかもしれません。光には、それほど大きな可能性が秘められているのです。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 理学部 化学科 教授 安倍 学 先生
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