光や温度などの環境因子が生物を変化させる
産業界が自然界を模倣する
鳥類が1日に産む卵は1個だけです。しかし多くの鳥は複数の卵を、ほぼ同じ日にふ化させて育てます。自然界では親鳥は先に産んだ卵を1日以上温めずに置くことで、胚の発生を途中で停止させているのです。その方が効率的に育てやすく、子育て期間が短くなり、天敵からの危険を避けられるメリットがあります。人間はこれにヒントを得て、養鶏場へヒナを安定供給するため、温度帯を研究し、低温での貯卵(貯蔵)を行うようになりました。低温を胚の発生オフのスイッチとすれば、温度を上げて発生を再開させる、オンのスイッチもあります。
温度と光は重要な環境因子
動物には体内時計が備わっています。時間生物学では、体内時計と環境因子の関わりが研究の大きなテーマです。ニワトリやウズラといった家禽(かきん)の場合、特定の色の光を特定の時間帯に当てることで繁殖をコントロールしたり、大型化を促進したりできることがわかっています。光は強力な環境因子です。遺伝子操作ではないので、食の安全性や持続的な生産に役立ちます。また、前述のようにふ化の段階で温度を変化させることによって胚の発生を止めたり再開したりできるのも、温度が環境因子であるから可能というわけです。
研究を応用、発展させると
これらのメカニズムを解明するには、ニワトリの全遺伝子のゲノム解析が必要になります。動物の体内で起きる出来事を、遺伝子からのアプローチで研究するのです。発生(細胞分裂)を停止している受精卵の中で起きていること、どうやって生命活動を維持しているのかを理解すれば、将来、常温でふ化させられるようになり、孵卵器(ふらんき)が要らなくなります。
また、哺乳類の受精卵や精子などの細胞は、液体窒素で超低温保存されていますが、iPS細胞から作った臓器や細胞シートは超低温保存できないのです。これらを常温で移動・保存できる可能性も期待されます。養鶏産業に革命をもたらした冷温貯蔵技術が、医学にも応用される可能性は、基礎研究が意外な分野で応用されていく一例です。
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先生情報 / 大学情報
日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 動物科学科 准教授 中尾 暢宏 先生
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時間生物学、動物生理学、動物繁殖学先生が目指すSDGs
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