アルツハイマー病発症の原因となる「タウ」の謎を解き明かす
アルツハイマー病とは?
日本の認知症患者は500万人を超えると言われ、その約7割はアルツハイマー病です。この病気では、はじめ脳に老人斑と呼ばれるシミが現れ、やがて神経細胞内に神経原線維変化が生じます。すると、神経細胞死とともに認知機能の障害が現れます。シミはアミロイドβによるものです。一方、神経原線維変化はタウとよばれるタンパク質が異常化し、蓄積したものです。症状としては、まず新しいことが覚えられなくなります。これは短期記憶をつかさどる海馬周辺にタウが蓄積して、神経機能障害を引き起こすからです。その後、徐々に病変は大脳新皮質に広がり、親しい人の顔や名前が思い出せなくなるなど症状が進行します。現在、この病気の進行を止める術はありません。
タウの居場所が変わると病気になる!
アミロイドβはアルツハイマー病にともない蓄積しますが、タウは産まれたときから神経細胞に豊富に存在するものです。したがって、神経細胞を支えてきたタウがなぜ異常化し、障害を与えるようになるかが研究されています。そのためには、まずはタウの正常な状態がわからなければなりません。脳の神経細胞には、微小管とよばれる細胞骨格があり、これに付着して安定化させるのがタウの役割と考えられています。正常脳では、タウは神経細胞の軸索と呼ばれる場所にあることがわかりました。しかし、病気の脳ではタウが細胞体や樹状突起とよばれる別の場所に異常蓄積し、このような神経細胞はやがて機能を失います。本来の場所にあるべきタウが、何らかのきっかけによって居場所が変わることが病気につながる重要なステップであると考えられます。現在、さらにその詳しいメカニズムについて研究が進められています。
将来は、正常老化の原因も明らかに
100歳を超える高齢者の脳を調べると、実はみなさん少しタウが蓄積しています。老化すると物覚えが悪くなるといった正常老化の仕組みも説明できるかもしれません。ヒトがどれだけ健康に生きられるのか、どうすれば脳機能を保てるかが明らかになるでしょう。
参考資料
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同志社大学 生命医科学部 医生命システム学科 准教授 宮坂 知宏 先生
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