白内障治療にも貢献できる? エピジェネティクスの謎を解き明かせ!
DNAが同じでも違いが出るのはなぜ?
一卵性の双子はまったく同じDNAを持っていますが、徐々に性格や外見に違いが生じます。一卵性双生児のように、DNA配列は同じでもなんらかの要因で形質が変化する現象を「エピジェネティクス」と呼びます。生物は環境やストレスなど、後天的な刺激によって遺伝子の発現や形質が変わります。どのような条件で変化するのか、仕組みはどうなっているのかなど、エピジェネティクスの謎を解明するための研究が行われています。
エピジェネティクスの謎に迫る
エピジェネティクスの研究は始まったばかりです。パンやビールの材料となる出芽酵母などを使い、細胞の世代を超えた追跡調査が行われています。研究が進むにつれ、娘細胞にはエピジェネティックに発現状態が変化するものとそうでないものがあることがわかってきました。
また、エピジェネティックな発現状態の変化はDNAが巻き付いているヒストンの修飾状態に左右されることも明らかになっています。DNAとヒストンによって作られる構造がいくつも連なった「クロマチン構造」の状態が変化すると遺伝子の発現も影響を受け、エピジェネティックに制御されます。構造変化の理由や、DNAとヒストンの修飾状態が変化する条件についてはまだ研究途上です。
白内障の治療薬を開発
酵母で得られた研究成果はほかの生物にも当てはまるため、人間の病気の治療に応用することもできます。例えば白内障です。人の両目は同じDNAを持っていますが、病気の進行度は人によっては左右で異なり、エピジェネティクスが関与する症状だといえます。酵母の研究中に発見されたクロマチン構造の変化を阻害する因子を使うと、白内障を持つラットの症状が治ることがわかりました。白内障の発症に関与する遺伝子のクロマチン構造が通常より緩むことで、白内障が発症していたのです。
白内障は手術でも治療できますが、高い費用や技術が求められます。もし薬での治療が実現すれば、途上国などで白内障に苦しむ人を救う可能性が高まります。
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福井大学 工学部 物質・生命化学科 教授 沖 昌也 先生
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