植物の持つ抗酸化作用の仕組みを人類の健康に役立てる
植物の持つ抗酸化能力
近年「抗酸化」というワードがよく聞かれるようになりました。生物は呼吸をすることで体内に活性酸素が発生します。活性酸素には免疫などにかかわる重要な働きもありますが、細胞内に多く発生すると、色々な物質を酸化して、老化や様々な病気を引き起こします。活性酸素によるダメージは動物も植物も同様ですが、植物は動物のように移動できないため、自然界では活性酸素を発生させる様々な環境ストレスを回避できません。植物は、その対応策として活性酸素によるダメージを弱める抗酸化機能を発達させました。この機能をヒトに応用して老化や様々な病気を防ぐための研究が世界中で進められています。
γ-グルタミルシステインを合成する酵素の発見
細胞内で抗酸化作用を示す代表的な物質にグルタチオンというペプチドがあります。近年の研究で、グルタチオンを体内で合成する原料(基質)となる「γ-グルタミルシステイン」という物質にアルツハイマー病や認知症の緩和効果があることが報告されました。この物質は、アミノ酸の一種であるシステインとグルタミン酸から合成されますが、一瞬でグルタチオンへと変化するので細胞内に蓄積されません。しかも化学合成にもコストがかかるので非常に貴重で高価な物質であり、さらに研究を進めてヒトの役に立てるためには、低コストで生産できる方法が必要です。植物の抗酸化機能の進化について行われた研究の中で、グルタチオンを原料としてγ-グルタミルシステインを合成できる酵素が発見されました。この酵素を使えば、安価にγ-グルタミルシステインを合成することが可能となります。
抗酸化で老化を防ぐ
γ-グルタミルシステインは、生体内物質なので安全性が高いと考えられています。今後の研究によって、この物質がどのように脳に届き、どのような効果を示すのかがわかれば、活性酸素が原因と考えられる老化や病気の予防、さらには治療に応用できる可能性があります。いつまでも若く元気でありたいという人類の願いにも一歩近づけるかもしれません。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
和歌山県立医科大学 薬学部 薬学科 教授 平田 收正 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
植物生理学、進化生物学、老年医学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?