エストロゲンと中性脂肪との関係は? 解き明かされる謎
胃から分泌されるエストロゲンの謎
エストロゲンは性周期を調節する女性ホルモンです。胃の胃酸を出す細胞からもエストロゲンは分泌されますが、その役割は長い間不明でした。また、血液中の中性脂肪は体のエネルギー源として全身で使われますが、多いと動脈硬化を引き起こし、少ないと心臓がエネルギー不足になります。この血中中性脂肪を適正な値に調節するメカニズムも謎に包まれたままでした。ところが最近の研究により、胃のエストロゲンが血液中の中性脂肪量を調節していることが明らかになってきたのです。
血中の中性脂肪量の調節
胃から分泌されたエストロゲンは肝臓に運ばれて糖や脂肪の代謝に関与します。またエストロゲンの合成には大量のエネルギーが必要です。これらのことからエストロゲンを分泌する胃の細胞のエネルギー源を調べたところ、脂肪であることがわかりました。次に、オリーブオイルをラットに飲ませて血中中性脂肪を増やすと血中エストロゲンが増えましたが、胃を取り除いたラットでは血中エストロゲンに変化はありませんでした。エストロゲンは食欲や脂肪の合成を抑えたり、脂肪の蓄積や消費を増やすことが知られています。これらは全て血液中の中性脂肪を減らす作用があるため、血中中性脂肪が増えると胃からのエストロゲン分泌が増えることで血液中の中性脂肪を減らすことがわかりました。
エストロゲンの新たな理解で開く扉
血糖値を調節するインスリンの発見(1921)から100年の節目の年(2021)に血中中性脂肪の調節メカニズムが提唱されました。血中エストロゲンを「性周期を調節するホルモン」としてではなく、「中性脂肪を調節するホルモン」と見方を変えると説明できる病気があります。例えば女性は閉経後に血中中性脂肪が高くなりますが、これは血中エストロゲンが減少したことで体が血中中性脂肪が減ったと勘違いした結果だと考えられます。このように、エストロゲンに対する新しい見方は、体の仕組みや病気の理解を深めるとともに新しい治療法の開発にもつながると期待されます。
参考資料
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和歌山県立医科大学 医学部 医学科 解剖学第一 教授 金井 克光 先生
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