宗教と性 ヨーロッパの文化的多様性と教育の問題
移民と教育
ヨーロッパには多くの移民や、移民をルーツとする人たちが暮らしています。イスラーム教徒(ムスリム)も多く、その数は現在のヨーロッパ全体の人口の約5%を占めています。ムスリム移民は1960年代頃から欧州各地でコミュニティを形成し、2世、3世、4世と世代をつなぎながら生活を営んできました。そうした中で、ムスリムとしてのアイデンティティを次世代へ伝えていくために、イスラームの価値観に基づく教育のニーズが高まってきました。それらのニーズを学校教育の中でどのように反映するべきか、各国で議論が続けられてきました。
セクシュアリティ教育
ムスリムの子どもたちの礼拝や食事、女子児童の服装など、問題とされてきたことは様々です。特に近年表面化しているのがセクシュアリティ教育をめぐる問題です。世界で初めて同性婚を認めたオランダをはじめ、ヨーロッパには性やジェンダーにかかわる社会規範を比較的柔軟に変えてきた国が多く、セクシュアリティ教育にも積極的です。生殖や避妊の仕組み、親密な関係の築き方など、早い段階から踏み込んだ内容の教育を行っています。こうしたセクシュアリティ教育の内容はムスリムの性規範と相容れない場合があります。しかしながら、近年では社会統合の観点からムスリムに対してもヨーロッパ基準のセクシュアリティ教育を実施することが求められるようになっているのです。
より良い教育のあり方
自分たちの宗教観から逸脱する面もあるセクシュアリティ教育をどこまで取り入れるのか、ムスリムコミュニティは難しい現実に直面しています。ヨーロッパにはムスリムの子ども向けの学校がありますが、そうした学校の中にはイスラームの聖典・コーランを基軸としながらも、性の多様性を否定しない教育に取り組む学校も出てきました。
このように、移民をルーツとする人々を含む複雑な構造をもつヨーロッパの教育のあり方やその背景にある思想などを分析していくことで、多様な背景をもつ人々がより良い教育を受けられる方法を考えることができるのです。
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