認知症を引き起こす謎のタンパク質を探る
超高齢社会と認知症
日本社会に占める65歳以上の高齢者の割合は2022年でおよそ30%に達しています。そこで深刻化しているのが認知症患者の増加です。認知症は主に、「アルツハイマー病」「レビー小体型認知症」「前頭側頭葉変性症」の3つがあります。中でも前頭側頭葉変性症はまだ研究があまり進んでいません。
神経変性疾患の原因
現在、神経変性疾患やがんに関係する遺伝子が特定されてきています。がんは遺伝子が変異して、本来とはアミノ酸配列の違うタンパク質がつくられて細胞ががん化し、増殖することで発症します。一方で、神経変性疾患に共通しているのは、脳内で特定の機能を持っていた神経細胞が徐々に死んでいく症状です。そこには、がん化とは異なる仕組みでタンパク質の変化が関わっています。細胞が死んでいく過程を観察すると、本来ではあり得ないタンパク質の塊が細胞内にできていることがわかります。それが細胞の活動に負荷をかけることで、細胞の死を引き起こしていると予想されます。このような状態が起こる仕組みは、まだ明らかになっておらず、培養された神経細胞を用いて塊になるタンパク質の解析が進められています。
タンパク質を解析する
解析では、細胞を潰してタンパク質を含む溶液にし、質量分析で分子量などを調べます。同時に、細胞の中を追跡して、目的のタンパク質が細胞のどこにあるかも特定します。タンパク質は遺伝子の転写と翻訳を経て合成された後に、リン酸化などの翻訳後修飾が起きることで機能のスイッチが切り替わります。目的のタンパク質に起きる翻訳後修飾の状態によって、どのような機能のスイッチが入るのかがわかれば、それが健康な細胞にどう働くのか、そして、本来ではありえないタンパク質の塊になってしまうようなスイッチの誤作動を解き明かせるでしょう。このような研究で発症の仕組みを明らかにすれば、薬を開発するためのヒントになります。人体で直接原因を探ることは非常に難しいため、細胞レベルでできることを突き詰めて解明していくことが大切なのです。
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長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部 メディカルバイオサイエンス学科 教授 亀村 和生 先生
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