植物の生き残り戦略に学び、新薬を作ろう!
なぜ、“ヒト”は植物を薬として利用するのか?
世界中で用いられる医薬品の半数は、植物などの自然界から得られる物質を元として創られています。特に、“ヒト”は数千年前から、植物の根や葉などを薬(生薬)として利用してきました。では、なぜ、“ヒト”は植物を薬として利用してきたのでしょうか? その理由の一つは、植物が厳しい環境や生存競争を生き抜くための道具として、“ヒト”が思いもつかない多種・多様で複雑な成分(化合物)を作りだし、それらの化合物の中に“ヒト”にとって思いがけない効果を示すものがあったためと言えます。このように、医薬品開発において植物は魅力的な素材の一つであると考えられています。
薬用植物・薬用食品が生産する物質とは?
医薬品の元として期待される植物として、食用であり薬用として利用される薬用植物・薬用食品が挙げられます。その代表的な例として、ネギ属植物であるタマネギ、ニンニク、ネギなどがあります。タマネギは、動物などの外敵によって植物細胞が傷つけられると、身を守るために瞬時に、涙を流させる刺激性の化合物、すなわち、“催涙物質”を生成します。この催涙物質は、細胞が傷つけられた際、細胞の中で別々の場所に保管されているアミノ酸と酵素と呼ばれるたんぱく質が反応し生み出されます。同じようなメカニズムで、ネギやニンニクも植物細胞が傷つけられると、アリシンという化合物を生成します。アリシンは、化学的に不安定でありそのままの形では医薬品として利用できませんが、抗がん作用や抗ウイルス作用など多様な活性を示す化合物として知られています。
植物の生き残り戦略に学ぶ医薬品開発
現在、がんや新型コロナウイルス感染症に対する新たな治療薬の開発が、植物から得られる化合物を元として試みられています。植物を用いた医薬品開発には、植物の巧みな生き残り戦略を理解し、植物が作りだす化合物の生成過程を学び、化学および生物などの知識と技術を組み合わせることが重要となります。
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京都薬科大学 薬学部 薬学科 創薬科学系 生薬学分野 准教授 中村 誠宏 先生
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