mRNAをターゲットにして難病治療薬を創る

mRNAをターゲットにして難病治療薬を創る

遺伝子情報の運搬役、mRNAを攻略!

遺伝病は、遺伝子の突然変異や染色体異常が次世代以降に伝えられて起こります。それゆえ、遺伝子異常をもって生まれた限り、発症が不可避で治療法がない病気です。なんとか遺伝病の発症を抑えることはできないのでしょうか。
人間の細胞や遺伝子を置き換えることは簡単にはできません。ただ、細胞を作るタンパク質の設計図であるDNAの改編はできなくても、DNAの情報を運ぶ役目を担うメッセンジャーRNA(mRNA)を操作すれば、遺伝病の発症を抑えることは可能です。

「スプライシング」を解明して制御する

DNAはいわばタンパク質設計図データの格納庫です。mRNAはDNAから写し取られた遺伝情報をタンパク質合成部位であるリボソームに伝えます。設計図の情報は、遺伝そのものには不要な塩基配列を含むため、不要な部分を除去してつなぎあわせる「スプライシング」という過程が必要です。しかし遺伝病ではDNA変異などの理由でスプライシングが正しく行われず、作られるべきタンパク質が作られなかったり、間違ったタンパク質が作られたりして病気を引き起こします。各病気におけるスプライシングのメカニズムを解明し、人為的に制御できる低分子化合物を見つけられれば、それを応用して遺伝病の治療薬を開発できます。

遺伝子に関わる病気を治せる未来へ

例えば「家族性自律神経失調症」は、東欧系ユダヤ人に多くみられる、DNA変異をもつ遺伝病です。この病気に対しては、正しいスプライシングを起こさせ、正常なタンパク質を生成させる低分子合成化合物「レクタス」が、日本の研究チームによって発見されています。
mRNAを含むRNAをターゲットにすれば、ほかにも難治性の遺伝病として知られる筋ジストロフィー、遺伝子が発症に関係するとみられるアルツハイマー病、パーキンソン病などの治療薬を開発することも夢ではありません。今までとは全く違うアプローチによって、手軽に服用できる「薬」で難病を治す日も近いのです。

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先生情報 / 大学情報

京都大学 大学院医学研究科 形態形成機構学 教授 萩原 正敏 先生

京都大学 大学院医学研究科 形態形成機構学 教授 萩原 正敏 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

化学生物学、創薬医学、分子生物学

メッセージ

大学は18歳ぐらいからの何年間かで、さまよいながら自分だけの道を見つける場所です。私は学生時代、当時手がけていた研究に疑問を感じて、バックパックを背負ってシベリアを横切り、東欧諸国を旅しました。文化や価値観が全く違う環境に自分を置いてどう感じるか、自分が本当にやりたいことは何かを知りたかったのです。いろいろな国をさまよった末に、創薬に人生をかけてみようと思いました。若い時代にいろいろな価値観の世界を見れば、自分の本当にやりたいことが浮かび上がってきます。

先生への質問

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