天然物の可能性ー細胞の色を切り替えるスイッチ分子をつくるー
天然物とは
植物や動物などの生物は、さまざまな化合物をつくりだしています。それらの化合物は天然物と呼ばれています。ひとつひとつの天然物を人間の手でつくり(有機合成)、その生理活性を明らかにする試みは、医薬品、化粧品、安全な農薬などの開発につながるため、薬学、理学、工学、そして農学の分野で行われています。さらに、有機合成により、天然物の元の構造を変化させた誘導体をつくりだすことができ、それらは天然物にはない新たな生理活性を示す可能性があります。
細胞の色を切り替えるスイッチ分子
ツバキ科植物の葉には、ジヒドロレスベラトロールグルコシドが天然物として含まれています。そのグルコシドは、ブドウ糖を原料に、有機合成でつくることができます。
紫外線を浴びると、日焼けを起こし、私たちの皮膚は褐色になります。その現象を司る細胞にグルコシドを作用させたところ、細胞の色は白くなりました。一方、有機合成により、キシロースを原料につくられた、誘導体であるジヒドロレスベラトロールキシロシドを細胞に作用させたところ、逆に、細胞の色が黒くなりました。このように、天然物のグルコシドと誘導体のキシロシドは、細胞の色を切り替えるスイッチ分子として働くことが分かりました。
天然物の可能性
ほかにも、アピオス、カシスなどに含まれる化合物の有機合成も行われています。マメ科のアピオスには、特殊なイソフラボンが天然物として含まれています。それらおよび誘導体を有機合成し、生理活性を評価したところ、細胞の色を変える原因となる酵素のチロシナーゼを阻害することが分かりました。また、世界に先駆けた、カシスに含まれる対称性に富む天然ポリフェノールも有機合成されています。医薬品、化粧品および農薬への利用など、天然物にはさまざまな可能性が秘められています。それらの可能性を明らかにするため、農学の立場から有機化学的な研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
宇都宮大学 農学部 応用生命化学科 教授 二瓶 賢一 先生
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天然物有機化学先生への質問
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